
目次
システム開発を検討する際、もっとも重要な指標が「費用対効果」です。費用対効果を正しく把握すれば、無駄なコストを省き、最大限のリターンを得られます。
本記事では、システム開発における費用対効果の基本的な考え方から、効果を高めるためのポイントを解説します。
適切な投資判断を行い、プロジェクトを成功に導くための知識を身につけましょう。
システム開発の「費用対効果」とは?
システム開発における「費用対効果」とは、開発や導入に投じた費用(コスト)に対して、どれだけの成果や利益(リターン)が得られたかを示す指標です。具体的には、下記の項目がリターンとして評価されます。
- 業務効率化による人件費削減
- 売上増加
- 顧客満足度向上
- リスク軽減
効果には、下記の3つがあり、これらを総合的に評価することが重要です。
種類 | 特徴 |
定量的効果 | 数値で明確に測定できる経済的な成果 |
定性的効果 | 直接的な数値化は難しいものの、組織力や企業価値の向上につながる効果 |
コーポレートガバナンス効果 | 企業の健全な経営体制の確立やリスク管理の強化につながる効果 |
多角的な視点から費用対効果を捉えることで、賢明な投資判断を可能にします。
費用対効果が重要な理由
費用対効果が重要な理由は、限られた経営資源をもっとも有効に活用し、企業の成長と目標達成を最大化するためです。開発プロジェクトは、高額かつ長期にわたることが多く、成果が不明確なままでは経営資源を無駄にしかねません。
費用対効果を意識することで、投資の優先順位を明確にし、不要な開発や過剰な機能追加を防げます。プロジェクトの目標設定や進捗管理、成果測定が具体的に行えるようになり、関係者間の共通認識を醸成しやすくなる点もメリットです。
経営層にとっては、投資判断の客観的な根拠となり、プロジェクトの承認や継続の意思決定を支援する重要な情報となります。
システム開発の費用相場
システム開発の費用は、プロジェクトの規模や仕様によって異なります。ここでは、費用の項目ごとに解説します。
- 人件費
- 諸経費
- 作業項目ごとの費用相場
詳しく見ていきましょう。
人件費
システム開発コストの中で、大きな割合を占める項目です。エンジニアやデザイナー、プロジェクトマネージャーなど、関わる人材の人数やスキルレベル、開発期間によって費用は変動します。
費用は一般的に「人月×人月単価×開発期間」で算出されます。「人月」とは、1人が1ヶ月作業する量を表す単位で、3人のエンジニアが2ヶ月従事する場合、6人月です。
フルスクラッチの開発であれば、1人あたり月60〜100万円程度が相場です。専門性が高い領域や短納期プロジェクトでは、さらに単価が上がるケースもあります。
適正な人材配置がコスト管理のポイントです。
諸経費
人件費以外にかかる各種費用を指します。具体的には、下記の費用が含まれます。
- 開発ツールのライセンス費用
- クラウド利用料
- テスト用のハードウェア購入費
- 外部パートナーへの外注費
遠隔チームとの打ち合わせや移動に伴う交通費、会議費も該当します。初期段階では見落とされがちですが、全体の予算に占める割合は決して小さくなく、事前に見積もりへ反映しておくことが重要です。
作業項目ごとの費用相場
システム開発には、複数の工程があり、それぞれに費用が発生します。規模やプロジェクトの複雑性によって費用相場は大きく変動しますが、下記が小規模プロジェクト(エンジニア数名体制)の目安となります。
作業項目 | 費用相場(小規模プロジェクト案件) |
要件定義(要件整理) | 100万円~ |
基本・詳細設計 | 150万円~ |
実装(開発) | 500万円以上 |
テスト | 100万円~ |
保守・運用 | 月額10万円~ |
工程ごとの費用を把握することで、開発内容の優先順位を見直す材料になります。
費用対効果の算出方法
システム開発や導入の意思決定において、費用対効果の算出は欠かせません。算出するには、投資に見合う成果を客観的に測る必要があります。
代表的な定量的指標として、投資収益率(ROI)があります。算出方法は、下記のとおりです。
ROI=利益÷投資額×100 |
ただし、単にコストと売上の差額を見るだけでは十分ではありません。下記の要素も含めて、評価項目をリスト化・点数化し、分析することが重要です。
- コスト削減
- 業務効率化
- 顧客満足度の向上
- リスク低減
こうすることで、システム開発・導入の効果を客観的かつ多角的に判断でき、経営層への説明資料として説得力を持たせられます。システム投資の妥当性を見極めるうえで、戦略的な算出が求められます。
システム開発の費用対効果を高める7つの方法
システム開発の費用対効果を高める方法は、下記のとおりです。
- 目的設定とKGI/KPIの明確化を図る
- 要件定義の精度を上げて、スコープのズレを防ぐ
- 最適な開発手法・技術を選ぶ
- 初期開発コストの削減・クラウドを活用する
- ランニングコストを減らす工夫をする
- 自社に合った開発パートナーを見つける
- 導入後の費用対効果を測り、継続的に改善する
詳しく解説します。
目的設定とKGI/KPIの明確化を図る
何を達成したいのかという「目的」を明確にし、達成度を測る具体的な指標「KGI(重要目標達成指標)」及び「KPI(重要業績評価指標)」を設定することが重要です。
たとえば、売上10%向上(KGI)のために、新規顧客獲得数5%増(KPI)を目指すといった形です。これらが明確であれば、開発の方向性が定まり、必要な機能にリソースを集中できます。
結果、無駄な開発を抑制し、目標達成への最短ルートを辿ることで、費用対効果の最大化に直結します。進捗管理も容易になり、計画的なリソース配分が可能となるでしょう。
要件定義の精度を上げて、スコープのズレを防ぐ
システム開発の初期段階で行う「要件定義」の精度は、費用対効果を大きく左右します。開発範囲(スコープ)が曖昧だったり、関係者間の認識にズレがあったりすると、開発途中で仕様変更や手戻りが頻発し、コスト増加や納期遅延を招きます。
ユーザーの真のニーズを的確に捉え、必要な機能を過不足なく定義し、文書化することが不可欠です。明確な要件定義は無駄な開発を防ぎ、プロジェクトを計画どおりに進めるための羅針盤となり、費用対効果の向上に貢献します。
最適な開発手法・技術を選ぶ
プロジェクトの特性や目的に合わせて、最適な開発手法や技術を選定することも、費用対効果を高めるうえで欠かせません。仕様変更に柔軟に対応しやすい「アジャイル開発」は、ユーザーのフィードバックを迅速に取り入れながら開発を進めるため、手戻りを減らし無駄な機能開発を抑制できます。
最新の技術や開発ツールを適切に活用することで、開発効率の向上・品質の担保・将来的な拡張性の確保につながります。ただし、新技術導入にはリスクも伴うので注意が必要です。プロジェクトの目的や予算、納期などを総合的に考慮し、費用対効果がもっとも高まる選択をしましょう。
初期開発コストの削減・クラウドを活用する
システム開発の費用対効果を高めるためには、初期開発コストを賢く抑えることが重要です。有効な手段の1つが「クラウドサービス」の活用です。
自社でサーバーなどのインフラを構築・保有する必要がないため、ハードウェア購入費や設置場所、専門の管理担当者の人件費といった初期投資を大幅に削減できます。必要な時にリソースを利用できるため、柔軟性にも優れています。
ほかにもオープンソースソフトウェアの利用や、開発範囲の優先順位付けを徹底し、必須機能から段階的に開発することも初期コスト抑制につながるでしょう。
ランニングコストを減らす工夫をする
システムは開発して終わりではなく、運用していく中で継続的にコストが発生します。長期的な費用対効果を高めるには、ランニングコストをいかに抑えるかがポイントです。
具体的には、下記の工夫が考えられます。
- サーバーの監視や定期的なバックアップなど、運用タスクを自動化するツールを導入
- クラウドサービスのリソースの使用状況を定期的に見直し、最適な料金プランに変更
省エネルギー効率の高いハードウェアを選定することも、電力コスト削減につながります。初期設計の段階から運用保守の効率性も考慮することで、持続的なコスト削減が可能になるでしょう。
自社に合った開発パートナーを見つける
自社のプロジェクト目的や事業内容、企業文化を深く理解し、適切な技術力と豊富な開発実績を持つパートナーを見つけましょう。単に安価なだけでなく、コミュニケーションの円滑さ、課題解決に向けた提案力なども評価ポイントとなります。
信頼できるパートナーは、無駄なコストの発生を防ぎ、品質の高いシステムを納期内に実現してくれます。結果、費用対効果の向上に大きく貢献するでしょう。
導入後の費用対効果を測り、継続的に改善する
システムを導入したら、効果を定期的に測定し、継続的な改善活動につなげることで、費用対効果を持続的に高められます。
開発前に設定したKPI(重要業績評価指標)の達成度を定期的に評価し、投資額に対してどれだけの効果が得られたかを具体的に把握しましょう。効果が計画どおりに出ていない場合は、原因を分析し、システムの改修や運用方法の見直しなどの改善策を講じます。
PDCAサイクルを回し続けることで、システムを常に最適な状態に保てます。変化するビジネス環境にも対応させながら、価値を最大限に引き出せるでしょう。
費用対効果が低いシステム開発の特徴
多大な投資をしてシステム開発を行ったけれど、期待した効果が得られず、コストばかりがかさむケースは少なくありません。ここでは、費用対効果が低いシステム開発の特徴を紹介します。
- 目的・ゴールが曖昧なままプロジェクトを進行
- 要件定義の不備と度重なる仕様変更
- 開発会社とのコミュニケーション不足による認識の違い
- セキュリティ軽視による致命的なインシデント発生
詳しく見ていきましょう。
目的・ゴールが曖昧なままプロジェクトを進行
「何を解決したいのか」「システム導入でどのような状態を目指すのか」が明確でないと、開発の方向性が定まりません。その結果、担当者や開発会社が好き勝手な解釈で機能を追加したり、的外れなシステムが出来上がったりするリスクが高まります。
不要な機能の開発に時間と費用が浪費され、現場で使われない、あるいは期待した効果を発揮しないシステムが完成するでしょう。投じたコストに見合うリターンは、到底得られません。
要件定義の不備と度重なる仕様変更
要件定義は、システム開発の設計図ともいえる重要な工程です。必要な機能の洗い出し漏れや業務フローの理解不足は、開発途中や完成後に問題として露呈します。
結果、度重なる仕様変更が発生し、その度に追加の設計・開発・テストが必要となります。工数の大幅な増加、スケジュールの遅延、そして開発費用の高騰に直結するでしょう。
当初の予算を大幅に超過し、完成も遅れるため、費用対効果は著しく悪化する典型的なパターンです。
開発会社とのコミュニケーション不足による認識の違い
発注側と開発会社との間で、システムに対する目的や機能、期待する効果などの認識がズレていると、費用対効果は大きく損なわれます。コミュニケーションが不足していると、開発会社は発注者の真のニーズを理解できないまま開発を進めてしまいがちです。
完成したシステムが「思っていたものと違う」「使い勝手が悪い」といった事態に陥りかねません。手戻りや大幅な修正が必要になれば、追加コストや時間の浪費は避けられず、期待した効果も得られません。
定期的な進捗共有や密な意見交換の欠如が、致命的な認識の齟齬を生んでしまいます。
セキュリティ軽視による致命的なインシデント発生
システム開発においてセキュリティ対策を軽視することは、費用対効果を著しく低下させるだけでなく、企業の存続すら脅かす可能性があります。セキュリティ対策を怠ったり、専門知識が不足したまま開発を進めたりすると、完成したシステムに脆弱性が残り、サイバー攻撃の標的となるリスクが高まります。
万が一、情報漏洩や不正アクセス、サービス停止といった重大なインシデントが発生すれば、下記のダメージを被ることになるでしょう。
- 顧客からの信頼失墜
- 多額の損害賠償
- ブランドイメージの低下
- 事業機会の損失
開発費用が無駄になるどころか、遥かに上回るコストが発生し、費用対効果はマイナスに転落します。
システム開発会社を選ぶポイント
システム開発の成否は、適切な開発パートナーを選定できるかにかかっています。信頼できるシステム開発会社を選ぶうえで、注目すべきポイントは、下記のとおりです
- 得意分野は自社ニーズと合っているか
- 似たようなシステムの開発実績があるか
- 運用・保守体制が整っているか
- エンジニアの技術力・スキルは信頼できるか
- 提案力と課題理解力はあるか
- 担当者との相性はよいか
詳しく解説します。
得意分野は自社ニーズと合っているか
システム開発会社には、得意とする技術分野や業界、システムの種類があります。具体例は、下記のとおりです。
- 特定のプログラミング言語に強い
- 金融業界や医療業界などの専門知識が豊富
- ECサイト構築や業務システム開発が得意
自社が開発したいシステムの内容や目的、業界特有のニーズと、開発会社の得意分野が合致しているかを確認することが重要です。
得意分野が一致していれば、業務理解が早く、質の高い提案や効率的な開発が期待できます。費用対効果の高いシステム実現につながるでしょう。
似たようなシステムの開発実績があるか
開発会社を選定する際、過去の開発実績は重要な判断材料となります。とくに、自社が開発したいシステムと類似したプロジェクトの経験があるかは、必ず確認すべき重要なポイントです。
似たようなシステムの開発実績が豊富であれば、業界特有の課題や業務フローに対する深い理解を持っている可能性があります。下記のようなメリットが期待できます。
- 開発中に起こりうる問題を見越した対応ができる
- 的確で効果的な提案を受けやすくなる
- 蓄積された開発ノウハウにより、効率的で質の高い開発が進められる
- 期待するシステムが実現しやすくなる
選定時には、具体的な開発事例やどのような成果が得られたのかを確認し、実力を見極めましょう。
運用・保守体制が整っているか
システムは開発して納品されたら終わりではありません。リリース後の安定稼働を維持し、ビジネスの変化やユーザーの要望に合わせて改善していくためには、運用・保守が不可欠です。
そのため、開発会社がどのような運用・保守体制を整えているかを確認することは重要です。具体的には、下記の点をチェックしましょう。
- 障害発生時の対応スピード・サポート範囲
- 定期的なメンテナンス・アップデート
- ビジネスの成長に合わせた機能追加や改修への対応
- 費用体系の明確さ
長期的な視点で、安心してシステムの成長と運用を任せられる開発会社を選びましょう。
エンジニアの技術力・スキルは信頼できるか
システムの品質や開発効率は、実際に開発を担当するエンジニアの技術力やスキルレベルに大きく左右されます。そのため、開発会社がどのようなスキルを持つエンジニアを抱え、能力や経験が自社のプロジェクト要件に合致するのか見極める必要があります。
具体的には、下記の点を確認しましょう。
- 提案される技術構成の妥当性
- 過去の課題解決の実績
- 新しい技術への対応力
- 問題解決能力の高さ
技術的な信頼性が高いパートナーを選ぶことで、高品質なシステム開発の実現につながります。
提案力と課題理解力はあるか
優れた開発会社は、単に言われたとおりにシステムを構築するだけではありません。発注側のビジネス上の課題や、システム導入によって達成したい目的を深く理解し、解決するための最適な提案をしてくれます。
選定の際には、下記を見極めましょう。
- 丁寧なヒアリング
- 課題の本質への理解度
- 積極的かつ具体的な提案
費用対効果に優れたシステム開発を実現するためには、課題解決に向けて、建設的な議論ができる開発会社を選ぶことが大切です。期待以上の価値を提供してくれる提案力があるかも、開発会社を選ぶうえで重要なポイントとなります。
担当者との相性はよいか
システム開発は、短くても数ヶ月、長い場合は1年以上にわたる共同プロジェクトです。そのため、開発会社の担当者との相性やコミュニケーションの円滑さは、プロジェクトの成否を左右するほど重要です。
実際に担当者と話してみて、下記の点を確認しましょう。
- こちらの意図や要望を正確に汲み取ってくれるか
- 疑問や不安などを気軽に相談できる雰囲気か
- 「報告・連絡・相談」がスムーズかつ適切に行われそうか
ストレスなく意思疎通ができ、信頼関係を築ける相手でなければ、プロジェクトの進行に思わぬ支障が生じることも。複数の会社と面談し、最終的には担当者との相性も考慮して選定することが、プロジェクトを円滑に進めるための大切なポイントです。
まとめ:費用と効果を見える化して、システム開発を成功させよう
システム開発を成功に導くには、費用と効果の「見える化」が不可欠です。明確な目的設定や信頼できるパートナー選び、そして導入後の継続的な改善がプロジェクトを成功へと導きます。
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取締役
大阪大学工学部、大阪大学大学院情報科学研究科修了。
国内最大手IT企業の株式会社NTTデータで大手金融機関向けに債権書類電子化システム、金融規制・法規制対応システムの要件定義・インフラ設計・開発・構築・複数金融サービスのAPI連携等を手がける。その後、株式会社GeNEEの取締役に就任。
基本情報技術者試験、応用情報技術者試験、Oracle Master Platinum等多数