サプライチェーン攻撃の脅威増大:サードパーティリスク管理の新たなアプローチ

目次

サプライチェーン攻撃は、企業のサイバーセキュリティにおける新たな脅威として、重要性がますます増しています。特に、サードパーティ企業や取引先の脆弱性を突いた攻撃は、直接的な被害を受けていない企業にも重大な影響を及ぼします。

デジタル化の進展とともに、複雑化するサプライチェーンに対するリスク管理の難易度が高まり、従来のアプローチでは十分に対応できない状況が生まれているのです。

本記事では、サプライチェーン攻撃の現状や最新の事例、そしてサードパーティリスク管理の新たなアプローチについて解説し、企業が効果的なリスク管理を実施するためのステップを見ていきましょう。

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サプライチェーン攻撃の現状

サプライチェーン攻撃は、サードパーティや外部ベンダーの脆弱性を狙ったサイバー攻撃であり、近年、企業のサイバーセキュリティにおいて深刻な脅威となっています。

従来のセキュリティ対策では自社の防御に焦点が当てられがちですが、攻撃者はサードパーティのシステムやサービスを経由して企業の内部に侵入する手口を増やしており、そのリスクは拡大しています。

この章では、サプライチェーン攻撃の概要と傾向と最新事例を探っていきましょう。

サプライチェーン攻撃とは何か

サプライチェーン攻撃は、企業が利用するサードパーティの脆弱性を悪用して行われるサイバー攻撃の一種です。以下は、サプライチェーン攻撃の特徴的な手法です。

  1. サードパーティが提供するソフトウェアやサービスに悪意のあるコードを組み込む
  2. 企業は通常、取引先やサプライヤーを信頼し、そのソフトウェアやサービスを利用している
  3. 攻撃者は、その信頼を逆手に取り、サプライヤーのシステムに侵入
  4. マルウェアを埋め込んだソフトウェアやアップデートを通じて、標的の企業へ攻撃を仕掛ける
  5. この手法により、企業のセキュリティ対策を回避し、内部ネットワークやデータにアクセスすることが可能

このように、サプライチェーン攻撃は、サードパーティの脆弱性を利用して企業への直接的な侵入を試みるものであり、企業の防御体制が万全であっても、信頼する外部パートナーが攻撃経路として利用される可能性があります。

そのため、サプライチェーン全体にわたる包括的なセキュリティ対策が求められているのです。

サプライチェーン攻撃の増加傾向

サプライチェーン攻撃は、特に2010年代後半から急増しており、近年ではその手法が高度化しています。大規模な攻撃事例としてよく知られるのがSolarWinds攻撃(*1)であり、政府機関や大企業が広範囲に被害を受け、サプライチェーンの脆弱性に対する注目が一気に高まりました。

SolarWinds攻撃を契機に、サイバー犯罪者はサプライチェーンを利用した攻撃手法を多用し始め、2020年代に入ってもその攻撃件数は増加し続けています。

サプライチェーン攻撃の年代別増加傾向

年代主な出来事・特徴
2010年代前半サプライチェーン攻撃は比較的少なく、個別のケースで報告されていた。主に標的型攻撃が中心
2010年代後半SolarWinds攻撃が発生。大規模なサプライチェーン攻撃が注目され始め、サードパーティを経由した攻撃の増加が顕著になる
2020年代初頭クラウドサービスや外部ITベンダーの利用拡大により、サプライチェーン全体の脆弱性が狙われる攻撃がさらに増加

このように、サプライチェーン攻撃の増加は、企業がクラウドサービスや外部ITベンダー、グローバルサプライチェーンに依存することが深まった背景にあります。

サードパーティが攻撃経路として狙われるケースが多くなり、企業全体の防御力が問われる時代となりました。したがって、従来の自社中心のセキュリティ対策では不十分であり、サプライチェーン全体を視野に入れた包括的なセキュリティ戦略が必要です。

サプライチェーン攻撃のリスクを軽減するため、クラウドサービスの選択がますます重要になっています。セキュリティ対策を考慮した上で、自社に最適なクラウドサービスを選ぶことが、強固なサイバーセキュリティ対策を支える柱となります。下記の記事では、AWS、Azure、Google Cloudなどの主要クラウドサービスを比較し、最適な選択を行うためのガイドラインを記載しています。

サプライチェーン攻撃の種類

サプライチェーン攻撃には多様な手法が存在し、攻撃者はサードパーティや取引先の脆弱性を利用して、ターゲットとなる企業に侵入します。攻撃は、企業の防御策を回避し、間接的な侵入経路を利用するため、攻撃が検知されにくいという特徴があります。

以下に、代表的なサプライチェーン攻撃の種類を表でまとめました。

攻撃の種類概要
ソフトウェアサプライチェーン攻撃ソフトウェアの開発者や提供者のシステムに侵入し、悪意のあるコードを埋め込む。ソフトウェアのアップデートを通じて感染が広がる
リモートアクセス攻撃サプライチェーン内の取引先やサードパーティのリモート接続機器に侵入し、そこから企業のネットワークにアクセス
フィッシング攻撃サードパーティや取引先の従業員にフィッシングメールを送信し、マルウェア感染を誘発。正規のアカウント情報を取得して攻撃を広げる
マルウェア感染攻撃サプライヤーのシステムにマルウェアを感染させ、そのシステムを通じてターゲット企業にマルウェアが広がる
ハードウェアサプライチェーン攻撃製造業やITベンダーが提供するハードウェアに悪意のある機能を埋め込み、それをターゲット企業のシステムで利用させる

上記の攻撃手法は、サプライチェーン全体を通じてセキュリティを弱体化させ、広範囲に影響を及ぼす可能性があるため、企業は自社だけでなく、取引先やサードパーティのセキュリティ対策も徹底する必要があります。

最近のサプライチェーン攻撃事例

近年、サプライチェーン攻撃はますます巧妙化し、広範囲に影響を与えています。以下では、2022年から2023年にかけて発生した代表的なサプライチェーン攻撃の事例を紹介します。

トヨタ自動車の部品供給システムに対する攻撃(2022年)

2022年、トヨタ自動車のサプライチェーン企業である部品供給会社がサイバー攻撃を受けました。この攻撃によって、トヨタの国内全工場が一時的に稼働を停止する事態に至りました。この事件では、サプライヤーのリモート接続機器の脆弱性が狙われ、ランサムウェアがシステムに侵入し、ネットワーク全体が被害を受けました。結果として、部品供給が停止し、トヨタの製造プロセス全体に影響を及ぼしたケースです。

LINEヤフーへのサプライチェーン攻撃(2023年)

2023年11月、LINEヤフーは業務委託先を経由したサプライチェーン攻撃を受け、約44万件の個人情報が漏洩しました。この攻撃では、業務委託先の従業員が使用していたPCがマルウェアに感染し、その感染が拡大してLINEヤフーのシステムにまで及びました。委託先企業のセキュリティ対策の不備が、最終的にはLINEヤフーのサーバーへの侵入を許し、大規模な個人情報漏洩を引き起こしました。

ブッキング・ドットコムへのサプライチェーン攻撃(2023年)

2023年には、世界最大級の宿泊予約サービス「ブッキング・ドットコム」に対してもサプライチェーン攻撃が発生しました。攻撃者はまず登録されているホテルのシステムに侵入し、そこからブッキング・ドットコムのアクセス情報を窃取しました。この情報を利用してシステムへの不正アクセスが行われ、結果として多くの予約者の個人情報が漏洩する事態が発生しました。

3つの事例に共通するのは、企業自身のセキュリティ対策が強固であっても、サードパーティや取引先の脆弱性が攻撃の足掛かりとなり、最終的に重大な被害を引き起こす点です。

サプライチェーン攻撃に対抗するためには、サードパーティリスクの管理だけでなく、社内システムの開発・運用体制を最適化することが重要です。そこで注目されるのがDevOpsの導入です。DevOpsは、開発と運用を密接に連携させ、迅速で柔軟なシステム運用を実現します。セキュリティリスクが高まる下記の記事では、効率的な運用体制を築くための鍵となるDevOpsの導入ポイントを紹介しています。

サードパーティーを使用するリスク

サードパーティリスクの重要性

現代の企業は、クラウドサービスや外部ベンダー、サプライチェーン企業など、多くのサードパーティと連携しながら事業を展開しています。しかし、このような取引先やパートナー企業が持つ脆弱性が、結果的に自社のセキュリティリスクを高める可能性があるのです。

サードパーティリスクは、サイバー攻撃者にとっての主要な侵入経路となり得るため、企業は自社の防御だけでなく、取引先のリスクも包括的に管理する必要があります。

この章では、サードパーティリスクの概要やその影響、そしてそれを管理するためのTPRM(サードパーティリスクマネジメント)の重要性について見ていきましょう。

サードパーティリスクとは

サードパーティリスクとは、取引先や外部ベンダーなど、企業のサプライチェーンに関与する他社が抱えるリスクが自社に影響を及ぼす可能性を指します。データ漏洩やシステム障害、サイバー攻撃による情報漏洩などです。主なリスク要素を以下の通りです。

  • システム脆弱性:サードパーティのシステムにセキュリティの脆弱性があると、その弱点を攻撃者が利用して自社に侵入する可能性があります。
  • データ漏洩:サードパーティが扱う自社のデータが不正アクセスを受け、顧客情報や機密情報が漏洩するリスク。
  • コンプライアンス違反:取引先が法令を順守していない場合、自社も法的責任を問われる可能性があります。

サードパーティの脆弱性が招くリスク

サードパーティの脆弱性が原因で発生するリスクは多岐にわたります。以下に、具体的なリスクを分類して表にまとめました。

リスクの種類説明影響
サイバー攻撃リスクサードパーティのシステムが攻撃され、自社のネットワークやデータに侵入される可能性データ漏洩、システム障害、業務停止など、甚大なビジネスインパクトを与える
情報漏洩リスクサードパーティが保有する自社の顧客情報や機密情報が不正にアクセスされる顧客の信頼喪失、法的罰則、経済的損失
業務停止リスクサードパーティが提供する重要なサービスが停止した場合、自社のビジネス活動に直接的な影響が出る生産停止、納期遅延、経済的損失
コンプライアンスリスクサードパーティが規制を守らない場合、自社も連帯して法的制裁を受ける可能性法的制裁、罰金、ブランドイメージの低下

サードパーティの脆弱性が招くリスクは、自社のセキュリティ対策が万全であっても、サプライチェーン全体を通じて攻撃者に利用される可能性があるため、非常に深刻です。

TPRM(サードパーティリスクマネジメント)の必要性

サードパーティリスクを効果的に管理するためには、TPRM(サードパーティリスクマネジメント)の導入が不可欠です。TPRMは、サードパーティとの取引や連携に伴うリスクを評価し、軽減するためのプロセスを指します。サプライチェーン全体の安全性を確保し、ビジネスの持続可能性を向上させることができます。

TPRMの主なプロセス:

  • サードパーティの評価:リスクの高い取引先を特定し、詳細なセキュリティ評価を行う
  • リスク軽減策の実施:契約書やポリシーにリスク軽減策を組み込み、サードパーティに遵守を求める
  • 継続的なモニタリング:取引が進行する中で、サードパーティのセキュリティ状況を定期的に監視し、改善を促す

TPRMの導入により、企業はサードパーティリスクを可視化し、効果的に管理することが可能になります。サプライチェーン全体でのセキュリティ強化を図り、ビジネスの信頼性と安全性を保つことができるでしょう。

新たなサードパーティリスク管理のアプローチ

新たなサードパーティリスク管理のアプローチ

従来のサードパーティリスク管理では、契約書でのセキュリティ対策の明記や、事前のリスク評価に頼ることが一般的でした。しかし、デジタル化の急速な進展とサプライチェーンの複雑化に伴い、これまでのアプローチでは十分にリスクを軽減できなくなっています。

サイバー攻撃は日々進化し、サードパーティを経由した攻撃の脅威も拡大しているからです。

こうした背景から、より効果的で包括的なリスク管理のアプローチが求められており、サイバーセキュリティ・デューデリジェンスや継続的な監視が重要な役割を果たすようになっています。

この章では、従来のリスク管理の課題と、デジタル化に伴うリスクの拡大、そして新たなアプローチとしてのサイバーセキュリティ・デューデリジェンスの導入について解説します。

従来のリスク管理の課題

従来のサードパーティリスク管理にはいくつかの課題がありました。以下に代表的な問題点をまとめます。

  • 静的なリスク評価:取引開始時に一度リスク評価を行うだけで、その後のモニタリングが行われないことが多い
  • 形式的なセキュリティ対策:契約書でのセキュリティ要件は明記されていても、実際の遵守状況が確認されていない
  • サイバー攻撃への対応の遅れ:攻撃が発生した際、サードパーティのセキュリティ脆弱性が原因だと判明するのに時間がかかる
  • リスクの可視化不足:サードパーティが抱えるリスクが十分に把握できず、全体のセキュリティ状況が不透明

このような課題が残る従来のアプローチでは、サプライチェーン全体のセキュリティを確保することが難しく、企業は新たなリスク管理手法の導入を求められています。

デジタル化によるサードパーティリスクの拡大

デジタル化の進展により、サードパーティリスクはさらに複雑化・拡大しています。以下の点が、デジタル化によってサードパーティリスクが拡大する主な要因です。

要因説明
クラウドサービスの利用増加多くの企業がクラウドサービスを利用しているため、サードパーティが扱うデータ量が増え、攻撃の対象が拡大している
リモートワークの普及リモートアクセスが一般化したことで、サードパーティ経由でのネットワーク侵入が増加し、脆弱性が拡大している
サプライチェーンの複雑化グローバル化に伴い、多層的で複雑なサプライチェーンが形成され、全体のリスク管理が困難になっている
ITベンダー依存の増加システム運用やデータ管理を外部ベンダーに委託するケースが増え、サードパーティのセキュリティ脆弱性が大きなリスクとなっている

デジタル化に伴い、企業のIT環境が外部のサードパーティにますます依存するようになり、サイバー攻撃者にとっての新たな侵入経路となっています。従来のリスク管理手法だけでは、この急速な変化に対応できなくなっています。

サイバーセキュリティ・デューデリジェンスの導入

新たなサードパーティリスク管理のアプローチとして、サイバーセキュリティ・デューデリジェンスが注目されています。これは、サードパーティとの取引開始時だけでなく、取引の進行中も継続的にリスクを評価し、セキュリティ対策を見直すプロセスを含みます。

サイバーセキュリティ・デューデリジェンスの主なプロセス:

  • 初期評価:サードパーティのセキュリティポリシー、データ保護体制、コンプライアンス状況を確認し、リスクを評価
  • 契約に基づく遵守確認:セキュリティ対策やデータ管理の遵守状況を定期的に確認し、必要な改善を促進
  • 継続的モニタリング:取引が進行する中で、サードパーティのセキュリティ状況を定期的に監視し、新たな脅威に対応

メリット:

  • リスクの早期発見:継続的なモニタリングにより、サードパーティに新たなリスクが発生した場合でも早期に発見し対応できる
  • セキュリティ意識の向上:サードパーティに対するセキュリティ要求が明確化され、双方のセキュリティ意識が向上
  • サプライチェーン全体の強化:取引先を含めたサプライチェーン全体でのセキュリティ対策が強化され、リスクを最小限に抑えることができる

サイバーセキュリティ・デューデリジェンスの導入は、現代の複雑なサプライチェーンにおいて、包括的なリスク管理を実現するために不可欠な要素となっています。これにより、企業はサードパーティとの取引に伴うリスクを継続的に監視し、より安全で信頼性の高い事業運営を確保することができます。

サプライチェーン攻撃の脅威が高まる中、ITセキュリティは企業の持続可能な成長を支える重要な基盤となっています。サードパーティリスク管理だけでなく、企業全体のセキュリティ戦略を見直すことが必要です。このページでは、サイバー攻撃から企業を守るために、下記の記事では、必須とされるITセキュリティの重要性について詳しく解説しています。

サプライチェーンリスクに対するグローバル動向

サプライチェーンリスクに対するグローバル動向

サプライチェーン攻撃の脅威が増す中で、各国や国際機関は、法規制やガイドラインを整備し、企業に対してセキュリティ対策の強化を求めています。サプライチェーン全体を通じたリスク管理の重要性が高まる中で、企業は国際的な法規制やガイドラインに適応しながら、自社のサイバーセキュリティ対策を見直す必要があります。

この章では、国際的な法規制や各国の取り組み、そして企業が直面するサイバーレジリエンスの課題について見ていきましょう。

国際的な法規制とガイドライン

サプライチェーンリスクに対応するため、国際的な法規制やガイドラインが次々と制定され、各企業はこれに基づいたセキュリティ対策を求められています。主な規制やガイドラインを以下にまとめました。

法規制・ガイドライン説明対象
GDPR(EU一般データ保護規則)個人データの保護とプライバシーを重視し、データ管理者がサプライヤーのデータ保護状況を評価することを要求EU内で活動する企業およびEU市民のデータを扱う企業
NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)アメリカ国立標準技術研究所(NIST)が提唱するサイバーセキュリティの管理フレームワーク。企業がサードパーティリスクを評価・管理する指針アメリカ国内および国際的に活動する企業
サイバーセキュリティ法(中国)中国国内でのサイバーセキュリティ基準を強化し、サプライチェーンの脆弱性対策やデータ保護を厳格化中国国内で活動する企業および中国のサプライチェーンを利用する企業
サイバーセキュリティ経営ガイドライン(日本)経済産業省が定めた企業向けガイドラインで、サプライチェーンリスクに関する管理体制の強化を推奨日本国内の企業およびサプライチェーンを管理する企業

上記の法規制やガイドラインは、企業がサプライチェーン全体のセキュリティリスクに対応するための重要な枠組みを提供しています。

各国の取り組み事例

各国では、サプライチェーンリスクに対応するため、政府や企業がさまざまな取り組みを進めています。以下にいくつかの代表的な取り組み事例を紹介します。

  • アメリカ
    • 政府主導で「サプライチェーンセキュリティ法」を制定し、重要インフラや政府関連のサプライチェーンに対するセキュリティ基準を強化
    • 民間企業もNISTサイバーセキュリティフレームワークを活用し、サードパーティリスク管理を実施
  • EU
    • GDPRに基づき、データ保護とサプライチェーンのセキュリティ監査を厳格に実施
    • 各国で企業に対するサイバー攻撃リスク評価を義務化し、監査体制を強化
  • 中国
    • 中国政府は、国家サイバーセキュリティ法により、国内外のサプライチェーンに対する厳しい規制を導入
    • 重要な技術や情報が海外に漏洩しないよう、サプライチェーン全体のセキュリティ対策を強化
  • 日本
    • 経済産業省が「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」を策定し、企業がサプライチェーン全体を見据えたリスク管理を行うことを推奨
    • 日本国内のサプライチェーン企業向けに、セキュリティ強化のための支援プログラムを展開

各国の取り組みは、サプライチェーン全体のセキュリティリスクに対応するためのものであり、これにより企業は国際的なセキュリティ基準に従ったリスク管理が求められています。

企業が直面するサイバーレジリエンスの課題

サプライチェーン攻撃の脅威に対して、企業は単に防御を強化するだけでなく、攻撃を受けた後の迅速な対応力、つまりサイバーレジリエンス(*2)を高める必要があります。しかし、企業がこのサイバーレジリエンスを確保するには多くの課題があるのです。

主なサイバーレジリエンスの課題:

  • 攻撃後の迅速な復旧体制の確立:サプラチェーンの一部が攻撃された際、迅速にシステムを復旧し、業務を再開する体制が必要
  • サプライチェーン全体の協力体制の構築:取引先やベンダーとの連携が不足していると、攻撃後の復旧や情報共有が遅れ、被害が拡大する恐れがある
  • 継続的なリスクモニタリングの負担:サプライチェーン全体を常に監視し続けることはコストやリソースの面で大きな負担となる
  • 適切なバックアップとデータ保護:サプライチェーン攻撃によってデータが破壊された場合、適切なバックアップシステムが整備されていないと復旧が難航する

課題に対応するためには、企業は単なるセキュリティ対策を超えて、サプライチェーン全体での協力体制を強化し、攻撃後の復旧プロセスを迅速かつ効率的に実行するための計画を立てる必要があるでしょう。

効果的なサードパーティリスク管理の実施ステップ

効果的なサードパーティリスク管理の実施ステップ

サードパーティとの取引には、常にリスクが伴います。サプライチェーン攻撃やデータ漏洩のリスクが増加する中で、企業はサードパーティリスクを適切に管理するための具体的な手順を踏む必要があります。効果的なリスク管理は、サプライチェーン全体のセキュリティ強化だけでなく、企業の信頼性や競争力を高めるために欠かせません。

この章では、サードパーティリスクを効果的に管理するための実施ステップを解説します。

重要なサードパーティの特定

最初のステップは、自社にとって重要なサードパーティを特定することです。すべての取引先が同じリスクを持つわけではないため、影響度の高いサードパーティに焦点を当て、リスクの優先順位をつけることが重要です。

重要なサードパーティを特定するための要点:

  • 依存度:自社の業務運営において、どの程度依存しているか(例えば、主要なクラウドプロバイダーや製造業者など)
  • データアクセス範囲:サードパーティがどの程度のデータにアクセスできるか(顧客情報、機密データなど)
  • セキュリティポリシーの確認:各サードパーティがどのようなセキュリティ対策を講じているか

上記の観点から、リスクの大きいサードパーティを優先的に評価・管理することが効果的です。

セキュリティリスク評価の実施

次に行うべきは、各サードパーティのセキュリティリスクを評価することです。サードパーティが抱えるリスクの程度を把握し、必要なセキュリティ対策を導入するために重要です。

セキュリティリスク評価のプロセス:

  • セキュリティポリシーと実践の確認:サードパーティが採用しているセキュリティ対策が、自社の基準を満たしているか確認
  • システムおよびネットワークの脆弱性評価:サードパーティが提供するシステムやネットワークに脆弱性がないかを評価
  • 監査と評価ツールの使用:自社または外部のセキュリティ監査ツールを使用して、サードパーティのリスクを定量的に評価
リスク評価の対象具体的な評価項目
データ保護個人データや機密情報の保護方法、データアクセスの制限、暗号化対策など
インシデント対応能力サイバー攻撃やデータ漏洩が発生した場合の対応策、バックアップ体制、迅速な報告プロセス
コンプライアンス状況法令や規制に準拠しているか(GDPR、HIPAA、NISTなどの国際的な規制)

リスク評価は単なる一回限りの活動ではなく、定期的に見直し、リスクが変化した場合に迅速に対応できるようにすることが重要です。

リスク管理の契約への反映

リスク評価が完了したら、その結果に基づいて、サードパーティとの契約内容にリスク管理の要件を明確に反映させる必要があります。サードパーティに対して具体的なセキュリティ対策や報告義務を負わせることが可能になるでしょう。

契約に含めるべき主要なリスク管理項目:

  • セキュリティ基準の遵守:サードパーティに対して、自社が定めたセキュリティポリシーの遵守を義務付ける
  • インシデント報告義務:サードパーティがサイバー攻撃やデータ漏洩のインシデントを受けた場合、速やかに自社に報告する義務を明記
  • 定期的な監査の実施:契約期間中に、セキュリティ監査を定期的に実施することを契約に盛り込む

このように、契約にセキュリティリスク管理を明確に記載することで、取引先の責任を明確化し、リスクを軽減できます。

継続的なモニタリングと改善

最後に、サードパーティのセキュリティ状況を継続的にモニタリングし、必要に応じて改善策を講じることが重要です。リスクは変化し続けるため、定期的なモニタリングと迅速な対応が欠かせません。

継続的なモニタリングの方法:

  • リアルタイムのリスクモニタリングツール:自動化されたツールを使用して、サードパーティのセキュリティ状況をリアルタイムで監視
  • 定期的なセキュリティ評価:年次または四半期ごとに、サードパーティのセキュリティ評価を実施し、新たなリスクや脆弱性を検出
  • 改善策のフィードバック:セキュリティ評価の結果を基に、必要な改善策をサードパーティにフィードバックし、対応を促進

モニタリング結果を基に、サードパーティと継続的なコミュニケーションを取り、リスク軽減策を講じることで、長期的に安全な取引関係を維持することができます。

3つのステップを通じて、企業はサードパーティリスクを効果的に管理し、ビジネスの継続性とセキュリティを確保することが可能となるでしょう。

サプライチェーン攻撃の脅威増大記事の結論

まとめ|適切なリスク管理の実施が企業の持続可能な成長に貢献

サードパーティリスク管理は、企業が直面するセキュリティ上の課題に対処するための不可欠な要素です。

サプライチェーンの複雑化とデジタル化が進む現代において、単に自社のセキュリティを強化するだけでは不十分であり、サードパーティとの関係全体を通じたリスクの可視化と管理が求められています。従来の静的なリスク評価を超えて、継続的なモニタリングと改善を実施することにより、企業は不測の事態に備え、サイバー攻撃や情報漏洩から自社と取引先を守ることができるでしょう。

適切なリスク管理の実施は、企業のセキュリティを強化するだけでなく、信頼性を高め、持続可能な成長を支える基盤となります。サードパーティと共に強固なセキュリティ体制を築くことが、競争力の向上とビジネスの成功を後押しする重要な鍵となるでしょう。

*1
SolarWinds攻撃は、2020年末に明らかになった大規模なサプライチェーン攻撃の一つで、アメリカ政府機関や大企業、重要インフラ企業を含む多くの組織が被害を受けました。この攻撃は、ITインフラ管理ソフトウェアを提供するSolarWinds社の「Orion」という製品のアップデートに、攻撃者が悪意のあるコードを仕込んだことから始まりました。

攻撃の概要

  1. 侵入経路:攻撃者はまずSolarWinds社の開発環境に侵入し、「Orion」製品のアップデートにマルウェアを埋め込みました。
  2. 拡散手法:SolarWinds社の顧客は、提供されたソフトウェアアップデートを信頼して導入するため、このマルウェアを含むアップデートを受け入れました。これにより、攻撃者は顧客のシステムに侵入することに成功しました。
  3. 被害範囲::メリカの政府機関、技術企業、通信会社、重要インフラ企業など、18,000を超える組織がこの悪意のあるアップデートを受け取ったとされています。中にはアメリカ財務省や国防総省などの重要機関も含まれていました

マルウェアの役割

攻撃者が埋め込んだマルウェアは、感染したシステムに侵入し、システム管理者の特権を盗むために使用されました。その後、侵入したネットワーク内で長期間にわたり、情報収集やシステムへのアクセスを行いました。

影響

SolarWinds攻撃は、単なる一企業への攻撃ではなく、多数の組織に同時に影響を与えるサプライチェーン攻撃の代表例として世界的に注目されました。攻撃の規模と複雑さから、攻撃者は高度な技術を持つ国家支援のハッカー集団ではないかと考えられています。この事件はサプライチェーン攻撃の深刻さを改めて浮き彫りにし、企業や政府機関のサプライチェーン全体に対するセキュリティ対策の強化が求められるようになりました。

*2
サイバーレジリエンスとは、サイバー攻撃やシステム障害、データ漏洩などのサイバーリスクに直面した際に、企業や組織がその影響を最小限に抑え、迅速に回復し、ビジネスを継続できる能力を指します。具体的には、サイバー攻撃が発生しても、それに柔軟に対応し、システムやデータの保護を確保し、業務を迅速に復旧させるプロセスや体制を意味します。

サイバーレジリエンスの主な要素:

  1. 予防:サイバー攻撃やセキュリティ侵害を未然に防ぐための対策(例:ファイアウォールやウイルス対策ソフトの導入、定期的なセキュリティ監査)
  2. 検知:攻撃や不正アクセスを早期に発見するための監視システムやアラート機能(例:侵入検知システムやセキュリティ情報・イベント管理ツール)
  3. 対応:攻撃が発生した際に迅速に対策を実施し、被害の拡大を防ぐためのインシデント対応プロセス(例:緊急時対応計画、バックアップからのデータ復旧)
  4. 復旧:攻撃や障害から迅速にシステムを復旧させ、業務の継続を可能にする対策(例:データバックアップ、災害復旧計画の実施)

サイバーレジリエンスは、単なる防御力ではなく、回復力や柔軟性を含む概念です。これにより、企業はサイバー攻撃が避けられない場合でも、その影響を最小限に抑え、顧客や取引先に対する信頼を維持しながら、ビジネスを継続させることが可能となります。

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