
目次
要件定義の質次第で、プロジェクトの進捗が大きく左右されるため、時間をかけて取り組むべきです。
この記事では、システム開発の要件定義に欠かせない要素や要件定義書の作り方を解説します。
システム開発のプロジェクトを計画している方や、要件定義の方法を知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

システム開発の要件定義とは
プロジェクトの初期段階で行われる重要な工程で、システムの利用者や関係者のニーズを具体的な仕様に落とし込む役割を担います。
細かい事項まで決めることで、後続の設計や開発工程がスムーズに進行し、プロジェクト全体の質や効率が上がります。
要求と要件の違い
要求は、利用者や関係者がシステムに対して期待する機能やサービスのことを指します。一方、要件は要求を具体的な仕様や条件として文書化したものです。以下に例をあげました。
- 要求:ユーザーインターフェースを重視し、初見でも使えるようにしてほしい
- 要件:左にメインメニューを置き、目的の画面まで2クリックで遷移する仕様とする
このように、要求を具体的な要件に変換する作業が要件定義の重要な役割です。
システム開発の要件定義に欠かせない要素
システム開発の要件定義には、押さえるべき重要なポイントが4つあります。
- 機能要件
- 性能要件
- 品質要件
- 実行計画
ぜひ、プロジェクト成功率を高めるための参考にしてください。
機能要件
システムが実現すべき具体的な機能を定義するものです。ユーザー操作やシステム動作を詳細に記述し、どのような機能が必要かを明確にします。ECシステムの機能例を以下にまとめました。
- ユーザーが商品の在庫状況をリアルタイムで確認できる
- 顧客の問い合わせを自動で分類し、担当部署に振り分ける
- ユーザーがマイページでお気に入りの商品を登録できる
利用者のニーズをヒアリングし、業務フローを分析して具体的な機能を洗い出します。関係者との合意を得たものを要件として文書化し、機能要件が完成します。
性能要件
システムがどの程度の性能を発揮するかを定めるものです。システムの応答時間やデータ処理能力が含まれます。たとえば処理性能には以下があげられます。
- ウェブページの表示速度は3秒以内
- 月間アクセス数が100万件を超えても安定して稼働する
- データベースのクエリ応答時間は1秒以内
性能要件を明確にするために、システムの利用状況や負荷を予測し、必要な基準を設定します。これにより、どの程度の利用に耐えうるかを把握できます。
なお、性能要件はいくつかのパターンを想定したうえで決定するべきです。たとえば、ピーク時のアクセス集中や長時間の高負荷状態など、さまざまなシナリオを設定しましょう。
品質要件
セキュリティや信頼性、可用性などの観点からシステムの品質を確保するための基準を設定します。よくあげられる品質要件は以下のとおりです。
- システムの年間ダウンタイムは24時間以内
- ユーザーデータのバックアップを毎日自動で行う
- ユーザー認証は二段階認証を導入する
まず、利用者の要求や業界標準を考慮し、必要な品質基準を洗い出します。業界標準とは、特定の業界や分野で一般的に受け入れられている基準や規範です。なお、業界標準を調べる方法はいくつかあります。
項目 | 詳細 |
業界団体のガイドライン | それぞれの団体が発行しているガイドラインや標準 (例)ISO/IEC 25010 |
ベンチマーク調査 | 同業他社のシステム品質要件を調べ、どのような基準が一般的に採用されているかを把握する調査 |
専門書籍や論文 | システム開発に関する専門書籍や学術論文 |
コンサルタントの利用 | 専門のコンサルタントに依頼して、業界標準やベストプラクティスのアドバイスを受ける |
これらの方法を活用して品質要件を設定することが、システムの信頼性と安全性を確保するために重要です。
実行計画
システム開発に必要な工数やコスト、スケジュールを具体的に定めるものです。プロジェクトの全体像を把握し、各工程の計画を立てることで、開発がスムーズに進行します。たとえば、以下のように予定を組むとよいでしょう。
- 開発期間は6ヶ月
- 予算は1,000万円
- 各フェーズのマイルストーンを設定する
プロジェクトのスコープを明確にし、必要なリソースやスケジュールを詳細に計画します。また、リスク管理や進捗管理の方法も定め、進行を定期的にチェックしてください。
システム開発の要件定義書の作り方

要件定義書は、プロジェクトをスムーズに進めるうえで欠かせません。ここでは、作り方を各手順ごとに解説します。
- 要件定義を誰がやるべきか決める
- ヒアリング
- 実現可能な要求か整理
- 要件定義書の作成
それぞれ見ていきましょう。
1. 要件定義を誰がやるべきか決める
要件定義には、システム利用者のニーズを正確に理解し、技術的な観点から実現可能な仕様に落とし込むスキルが必要です。
そのため、担当者には業務知識と技術知識の両方が求められます。以下に、担当者を選任するときに考慮すべき点をまとめました。
必要スキル | 詳細 |
経験とスキル | システム開発の経験が豊富、ビジネスプロセスや業務知識も深い理解がある |
役割と責任の明確化 | 役割と責任を明確にする。 (例) プロジェクトマネージャー:全体の進行管理 システムアナリスト:要件の分析とドキュメント化 エンジニア:技術的な実現可能性の評価 |
協力体制の構築 | システム利用者やステークホルダーとのコミュニケーションを密にする、正確な要件を引き出し、実現可能な仕様に落とし込む |
継続的な教育とトレーニング | 最新の技術動向や業界標準の知識をアップデートする |
適切なツールの選定 | 要件定義をサポートするツールやソフトウェアを選定する |
要件定義の質を上げるには、適切な人材を選ぶことが重要です。
2. ヒアリング
システム利用者やステークホルダーからニーズや要望を直接聞き取るプロセスです。以下に流れをまとめました。
前準備
- 目的を明確する
- 質問リストを作成する
- 自由に答えられる質問と、クローズドエンド質問(はい・いいえで答えられる質問)をバランスよく組み合わせる
実施
- 適切な環境を設定し、リラックスした雰囲気の中で行う
- 対面やオンラインなど、最適な方法を選ぶ
- 相手の話を聞き、理解した内容をフィードバックして確認する
- 重要なポイントや具体的な要望をメモに取る
さまざまな視点の意見を集めるために、複数回、実施することが重要です。
3. 実現可能な要求か整理
ヒアリングで収集した要求を整理し、技術的および現実的に実現可能かどうかを評価します。以下に、評価基準をまとめました。
項目 | 詳細 |
初期整理と分類 | ヒアリングで得られた要求を整理し、カテゴリごとに分類しする |
技術的評価 | 現在使用している技術やツールで実現可能か開発チームが要求を実現するためのスキルや経験を持っているか要求の実現に伴う技術的なリスクはあるか |
現実的評価 | プロジェクトの予算内で実現可能か予算を超える場合、要求を縮小するか、ほかの要求と優先順位を調整できるかプロジェクトに必要な人材や設備が確保できるか |
優先順位の設定 | 重要度や緊急度、ビジネス価値に基づいて優先順位をつけ、重要な要求から順に実現する |
要求を整理し、プロジェクトの優先度を明確にすることで、効率的な開発を進められます。
4. 要件定義書の作成
ここでは、要件定義書の作成手順を解説します。
- 要件定義を整理する
- 課題と目標を明らかにする
- システムの全体像を明らかにする
- 機能の要件定義
- 非機能の要件定義
- プロジェクトの内容を決める
- 書類の作成
それぞれ見ていきましょう。
1. 要件定義を整理する
ヒアリングや調査で収集した情報を整理し、要件定義の全体像を明確にします。どの要件が重要であるかを明確にすることが大切です。以下にポイントをまとめました。
整理するポイント
- カテゴリ分け:収集した要件を機能要件、性能要件、品質要件、その他のカテゴリに分ける
- 優先順位の設定:要件の重要度や緊急度に基づいて優先順位を設定する
- 重複と矛盾の確認:収集した要件の中で重複しているものや矛盾しているものがないかを確認する
- 関係者との合意:整理した要件を関係者と共有し、合意を得る
これにより、要件定義書に記載する内容の基本的な枠組みが決まります。
2. 課題と目標を明らかにする
システム開発の目的や達成すべき目標を決めます。現行システムの課題を洗い出し、新システムでどのように解決するかを具体的に記述することが大切です。
目標は、現行システムの利用者から直接ヒアリングし、さまざまな視点を持つメンバーで決めましょう。いきなり大規模な変更を計画しても解決が難しくなるため、段階的な改善を目指すことが重要です。
目標を決めるとプロジェクトの方向性が定まり、全員が共通の目的意識を持って進められます。
3. システムの全体像を明らかにする
システムの全体像を把握するために、システムアーキテクチャや業務フロー図を作成します。システム構成や各機能の関係性が視覚的に理解でき、開発チーム全体の共通理解が深まります。
なお、システム開発や業務フローに慣れていない方向けに専門用語を多用せず、ユーザー目線で説明を進めることがポイントです。
たとえば、システムのおもなコンポーネントやデータフローを示すブロック図や、ユーザーの操作手順を示すフローチャートなどを活用しましょう。
4. 機能の要件定義
システムが提供する具体的な機能を定義します。どのような機能が必要で、それぞれがどのように動作するかを詳細に記述してください。以下にBtoC向けのECシステムの機能の例をあげました。
- ユーザー認証機能:ユーザーがシステムにログインするための認証プロセスを提供する
- 商品検索機能:ユーザーが商品を検索できるインターフェースを提供し、検索結果を一覧表示する
- 注文履歴管理機能:ユーザーが過去の注文履歴を確認し、再注文や詳細を表示できる
なお、要件定義にはユーザーストーリーやユースケースの作成も含まれます。ユーザーストーリーは、ユーザーがシステムをどのように利用するかを短い物語形式で記述、ユースケースは具体的な操作手順や条件を詳細に記述したものです。
これにより、開発チームがニーズに対応した機能を実装しやすくなり、使い勝手がよく高品質なシステム構築に向けてプロジェクトを進められるでしょう。
5. 非機能の要件定義
システムの性能や信頼性、セキュリティなど機能以外の要素を定義するものです。非機能要件が明らかになると、システムの安定性や信頼性が期待できます。以下に具体例をあげました。
- 応答時間:ユーザーが操作してからシステムが応答するまでの時間
- 可用性:システムが稼働している時間の割合
- セキュリティ対策:システムの安全性を確保するための対策
要件を確実に定義することで、システム全体の品質が向上し、ユーザー満足度の高いサービスを提供できるため、慎重に取り組みましょう。
6. プロジェクトの内容を決める
スケジュールや予算、リソース配分などプロジェクトの詳細な内容を決定します。計画を詳細に立てることで進行管理が容易になり、プロジェクトの成功率が高まります。
まず、プロジェクトの各フェーズに必要なリソースや期間を明確にしましょう。これに従い、定期的な進捗確認ミーティングを行い、問題が発生した場合には迅速にリソース配置やリスケすることが重要です。
また、リスク管理を徹底し顕在化する前に予防策を提案することが大切です。
7. 書類の作成
要件定義書を正式に文書化します。前述の各ステップで得られた情報をすべて含め、関係者全員が参照できる形に整えてください。
要件定義書は、プロジェクトの公式な記録として開発全体の指針となります。関係者とのレビューとフィードバックを経て最終版を確定するため、内容の正確性と一貫性に注意しましょう。
また、文書のバージョン管理を徹底し、変更履歴を明確にしておくことも重要です。これにより、あとから参照した際に、変更された経緯が追跡しやすくなります。
システム開発の要件定義のやり方とポイント
要件定義のやり方やポイントを押さえることで、システムの品質や開発効率を大幅に向上させられます。ここでは、重要なポイントを4つ整理しました。
- 現行業務の洗い出しをする
- ユーザーの現行システムの課題を洗い出す
- ユーザーの要求と要件定義書の擦り合わせ
- 理解がしやすい要件定義書を作成する
それぞれ見ていきましょう。
現行業務の洗い出しをする
現行業務の詳細な把握により、新システムに必要な機能や改善点を明確にできます。なぜなら、現行業務の問題点や効率が悪い部分を特定することで、具体的な改善策を見つけ出せるからです。
まずは、業務フローの図解を作ったり、各業務プロセスを整理したりして全体像を把握しましょう。
ユーザーの現行システムの課題を洗い出す
関係者を集めて、現行業務の中で発生している問題点や改善が必要な部分を明らかにすることが大切です。たとえば、操作性の悪さや処理速度の遅さ、セキュリティの不安などがあげられます。
これにより、どの部分が新システムにより効率化されるかをイメージできます。関係者全員が現行業務の課題と新システムの目的を共有することで、プロジェクトの方向性が明確になり、開発をスムーズに進められるでしょう。
ユーザーの要求と要件定義書の擦り合わせ
ユーザーの要求が技術的および現実的に実現可能かを評価し、必要に応じて調整を行います。必ずしも要求がそのまま実現可能であるとは限らないからです。
現実的でない要求や技術的に困難な要求を含めた場合、プロジェクトの進行に支障をきたすことがあります。そのため、ユーザーと開発チームの間で共通の理解を持つことが重要です。
理解がしやすい要件定義書を作成する
要件定義書は、関係者全員が参照する重要なドキュメントです。専門用語を避け、シンプルで明確な言葉を使い、図やチャートを活用して視覚的に分かりやすくすることがポイントです。
また、文書の構成を整え、重要なポイントが一目で分かるように工夫しましょう。これにより、技術者以外も要件定義書を正確に理解でき、手戻りを避けられます。
システム開発の要件定義を成功させるコツ

ここでは、要件定義を成功させるための具体的な4つのコツを解説します。
- ヒアリングは5W1Hを意識しながら進める
- 現行システムで不足している部分を明確にする
- 要件定義の読み合わせをする
- 全工程のスケジュールを立てる
それぞれ見ていきましょう。
ヒアリングは5W1Hを意識しながら進める
5W1Hとは、「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」のことです。これらを含めると、必要な情報を漏れなく収集し要件定義に反映できます。
- Who:誰がシステムを使用するのか
- What:何を行うためにシステムを使用するのか
- When:いつこの機能を使用するのか
- Whereどこでこのシステムを利用するのか
- Why:なぜこの機能が必要なのか
- How:どのようにこの機能を実現するのか
これにより、ユーザー視点の必要な機能や要件を明確にでき、開発チームとの誤解を防げます。
現行システムで不足している部分を明確にする
まずは、現行システムの利用者からフィードバックを収集し、具体的な問題点を特定してください。
ユーザー体験や業務効率の観点からの意見を丁寧に聞き取り、現行システムの課題を詳細に把握しましょう。これにより、新システムに反映すべき要件が明確になります。
不足部分の洗い出しにはアンケートやインタビューシートを用意し、利用者に記入してもらったり、直接インタビューしたりすることがおすすめです。これにより、利用者の具体的な意見やニーズを正確に把握でき、新システムの要件定義に役立てられるでしょう。
要件定義の読み合わせをする
読み合わせを行うことで、要件定義書に記載された内容に誤りや漏れがないかを確認します。関係者全員が要件定義書の内容を正確に理解できると、あとの工程でのトラブルを防げます。
とくに、技術的な用語や専門的な内容は改めて説明するなどして、全員が共通の理解を持つことが重要です。たとえば、技術的な仕様は図解を用いて説明したり、専門用語は具体例をあげて解説することで理解を深められます。
また、質問や意見交換の時間を積極的に作り、全員が納得したうえで進行できるようにしましょう。
全工程のスケジュールを立てる
各工程に必要な期間やリソースを明確にし、スケジュールを立てることで、プロジェクトを管理しやすくなります。スケジュールにはマイルストーンを設定し、進捗を定期的に確認してください。
なお、スケジュール管理には、ガントチャートやプロジェクト管理ツールがおすすめです。リーダーを決めて進捗状況を一元管理すると、より管理がしやすくなるでしょう。これにより、プロジェクト全体の進行状況を把握しやすくなり、遅延を防げ、スムーズに進められます。
システム開発の要件定義サンプル
以下に、要件定義書の参考になるサンプルを2つ紹介します。
目的 | 内容 |
新システム構築 | 業務要件、機能要件、非機能要件が一式揃っている要件定義書の書き方を調べるのに有用 |
システム更改 | システム更改に関する要件定義書現行システムの機能を踏襲しつつ、新しいハードウェア、ソフトウェアに移行するプロジェクトの参考に |
これらのサンプルやガイド資料を参考にすることで、要件定義書を効率的かつ効果的に作成できます。
参考|厚生労働省「毎月勤労統計調査オンラインシステムの更改及び運用・保守に係る業務一式 要件定義書」
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システム開発の要件定義は発注者の要求と要件を明らかにしよう
システム開発の要件定義は、発注者(利用者)の希望と必要な条件を洗い出すことが大切です。ニーズを丁寧に聞き取り、実現可能な形にまとめてください。
また、要件の優先順位をつけてプロジェクトの範囲を明確にすることが、発注者と開発者の間で誤解を招かないためにも重要です。
これにより、プロジェクトがスムーズに進みやすくなります。発注者の期待に応えるために、開発前のフェーズに時間をかけて取り組みましょう。