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2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表して以来、デジタル・トランスフォーメーション(DX)への取り組み意識が高まってきました。特に企業の基幹システムは、早急なDXが必要とされています。しかし、実際にデジタル化を実施している企業は5割程度にとどまっているのが実情です。その要因の一つとして、DXはその必要性やメリットを具体的にイメージすることが難しいことが挙げられます。
本記事では現状の基幹システムが抱える課題や、DXによってどんなメリットが得られるのかを具体的に解説します。
現状の基幹システムが抱える課題
DXの必要性やメリットをイメージするには、まず現状の基幹システムが抱える課題を理解する必要があります。基幹システムとは、企業活動を行う上で中心となる必要不可欠なシステムのことで、例えば販売管理システムや、サプライチェーン管理システム、顧客管理システム、ERP(Enterprise Resource Planning)などがあります。
現状の基幹システムは、以下のような課題を抱えています。
- ・システムの老朽化
- ・データのサイロ化
- ・ブラックボックス化
- ・2025年の崖
システムの老朽化
多くの企業で、基幹システムの老朽化、旧式化が進んでおり、2025年には約6割の基幹システムが運用開始から21年以上たつ旧式になると予想されています。(経済産業省「DXレポート」)
旧式のシステムには、次のような問題があります。
生産性の問題 | ハードウェアやソフトウェアの性能が低いため、生産性の向上を阻害する要因となる。 |
コストの問題 | 旧式のシステムや技術を理解するITスタッフが不足しているため、システムの拡張やメンテナンスに高額なコストがかかる。 |
拡張性の問題 | ITスタッフの不足によりシステムの拡張が行えず、ビズネスモデルの変化にシステムが追従できない。 |
セキュリティの問題 | 旧式のシステムはセキュリティサポートが終了していることが多く、情報漏えいやサイバー攻撃などのセキュリティリスクが高い。 |
データのサイロ化
データのサイロ化とは、システムが部門ごとに独立して存在し、部門間のデータ連携がとれていない状態を指します。自部門にとって都合の良いシステムを、各部門が独自に選定し導入してきたことにより、部門ごとに異なる基幹システムが運用されているケースが多くなっています。別々のシステム間でデータを連携させることが難しいため、部門間でデータ連携が取れずサイロ化していることも、現状の基幹システムの大きな課題です。
データのサイロ化は、例えば次のような問題を引き起こします。
・営業部門の顧客管理システムのデータをカスタマーサービス部門が使えないため、販売からサポートまでの一貫した顧客支援が行えない。
・製造部門と販売部門で別々の基幹システムを使っているため、在庫の状況がリアルタイムに把握できず、過剰在庫や在庫切れが起きやすい
ブラックボックス化
ブラックボックス化とは、システムの構造や内部動作、機能の意義がわからなくなってしまった状態を指します。システムをメンテナンスしてきた技術者が定年退職を迎えた際に適切な引き継ぎがされなかったり、ベンダーがサービスを終了したりといったことがブラックボックス化の要因です。そのため、長く運用しているシステムほど、ブラックボックス化しやすいといえます。ブラックボックス化してしまうと、トラブルシューティングに膨大な時間がかかったり、機能の更新や改善が困難になったりといった問題が発生します。
2025年の崖
システム老朽化やデータのサイロ化、ブラックボックス化といった課題の影響は、基幹システムの運用やメンテナンスにとどまりません。これらの課題が経営・事業戦略上の足かせとなり、市場での競争力が弱まることも予想されています。経済産業省が公開しているDXレポートでは、これらの課題に対して対策をとらない場合、2025年には最大で12兆円の経済損失が生じると警告しています(これは「2025年の崖」と呼ばれています)
DXを進めないことで起こり得るリスク
基幹システムのDXを進めないことによって市場競争力の低下を引き起こす具体的なリスクとして、以下が挙げられます。
- ・システムダウンによる顧客離れ
- ・情報漏えいによる顧客信頼度の低下
- ・システムの複雑化により移行が困難
システムダウンによる顧客離れ
インターネットの爆発的普及や、コロナ禍によるリモートワークの推進などにより、システムの通信量は膨大になっています。そのため、基幹システムの運用開始当初には想定していなかった通信量を処理しているシステムも珍しくありません。老朽化・旧式化したシステムでは、ハードウェア性能の限界により膨大な通信量の負荷に耐えられずシステムダウンするリスクが高まっています。さらに、一度ダウンすると、ブラックボックス化の影響で復旧に多大な時間がかかってしまいます。基幹システムがダウンしやすく復旧に時間がかかることは、お客様の満足度を下げることにつながり、他社サービスに乗り換えられてしまう要因となるでしょう。
情報漏えいによる顧客信頼度の低下
老朽化したシステムはセキュリティ対策が十分でないことが多く、情報漏えいなどのセキュリティ事故が起きるリスクが高まっています。情報漏えいがひとたび発生すると、顧客の信頼をいっきに失ってしまい、その回復には多大な時間がかかるでしょう。また、顧客情報のような重大な情報が漏えいした場合、損外賠償の支払いに発展するリスクもありえます。
システムの複雑化により移行が困難
長く運用している基幹システムは、改修や機能追加が繰り返し行われてきた結果、システム構造が複雑化している傾向があります。複雑化したシステムは、少しの変更でも不具合が生じやすかったり、他のシステムとの互換が失われていたりといった問題を抱えていることがほとんどです。そのため、別のハードウェアへ移管したり、システムの一部にAIなどの最新技術を導入したりといったシステム移行が困難となり、ビジネスの発展を阻害する要因となりえます。
基幹システムによって得られるメリット
基幹システムのDXにより、現状の基幹システムが抱えている課題・問題を克服でき、市場での競争力を高められます。
具体的には、DXには次のメリットがあります。
- ・生産性の向上
- ・コスト削減
- ・データ統合管理による経営分析機能の強化
- ・セキュリティ事故の回避
- ・新しい顧客価値やビジネスモデルの創出
生産性の向上
DXにより、業務を効率化して生産性を向上させられます。具体的には以下のような効果が期待できます。
- ・プロセスの自動化や業務フローを最適化することで、業務にかかる工数を減らせる
- ・離れた拠点間での情報共有がスムーズになり、迅速な意思決定が可能となる
コスト削減
DXにより、基幹システムの維持・運用コストを大幅に削減できます。例えば、クラウドストレージの活用によりサーバー費用を削減したり、分散したシステムを統合することでそれぞれのシステムにかかっていた維持費用を一元化したりといったコスト削減が可能です。
データ統合管理による経営分析機能の強化
DXにより、社内のさまざまなデータを統合して管理できるようになります。これにより、データ分析による企業戦略立案が容易になったり、戦略の実行をより高い精度でリアルタイムに管理できたりといった、経営分析機能の強化が可能です。
セキュリティ事故の回避
DXにより、最新のセキュリティを導入できるため、基幹システムのセキュリティが向上します。これにより、顧客情報の流出のような企業の信頼を損ねるセキュリティ事故を未然に防止できます。
新しい顧客価値やビジネスモデルの創出
DXにより、各部門が管理している顧客情報や在庫情報などの膨大なデータを、全社で活用できるようになります。データ活用は基幹業務の運用効率を高めるだけでなく、新しい顧客価値の創造やビジネスモデルの創出にもつなげられます。
基幹システムのDX事例
基幹システムのDXにより、大幅なコスト削減やビジネスの変革を実現した実例を紹介します。
池田食品株式会社
池田食品株式会社は、北海道を拠点にした食品製造メーカーです。基幹システムのDXにより課題を克服し、新しいマーケットの開拓に成功しました。
〜DX前の課題〜
お客様の嗜好の多様化によって、マーケットからは小ロット・多品種への対応が求められていた。しかし、生産管理コストが膨大になるため小ロット・多品種への切り替えが困難だった。
〜DXによる変革〜
従来の、見込みによる大量生産方式から、デジタル技術を活用した生産方式へとシフトした。需要予測に基づいた原材料の仕入れや製造、在庫管理を徹底してデジタル化することで、小ロット多品種へ切り替えられ、新たな市場を開拓した。
山本金属製作所
山本金属製作所は、金属部品の切削加工を手掛ける大阪の会社です。基幹システムのDXにより、品質向上を実現しただけなく、事業拡大にも成功しました。
〜DX前の課題〜
お客様に加工の難易度や品質を説明するのに、職人の勘や経験といった非論理的な説明しかできないという課題を抱えていた。
〜DXによる変革〜
加工によって生まれる熱や振動、負荷などをセンサーやデジタル機器を使って計測し見える化したことで、お客様とのディスカッションでデータを用いた論理的な説明が可能となった。さらに、データをモニタリングしながらリアルタイムに加工作業を調整できるようになり、品質が向上した。
また、センシングやモニタリングのノウハウを他社に提供するサービス事業をスタートさせ、事業拡大にも成功した。
JR西日本
JR西日本では、基幹業務である鉄道事業にデジタル技術を取り入れることで、大幅なコスト削減に成功しました。
〜DX前の課題〜
JR西日本では、管内に約2,000台の改札機を保有しており、1台あたり年7回の点検、年2回の故障対応といった運用コストがかかっていた。
〜DXによる変革〜
自社で故障予測システムを開発した。このシステムを神戸エリアで試行運用し、総点検回数30〜40%削減、故障件数15〜20%削減を達成。運用コストの大幅削減に成功した。
まとめ
現状の基幹システムの多くは、システムの老朽化やデータのサイロ化、ブラックボックス化といった課題を抱えています。放置すればシステムダウンによる顧客離れや、情報漏えいによる信用失墜などを引き起こし、市場での競争力を失うリスクがあります。この課題を克服するためにDXへの取り組みが急務です。基幹システムのDXにより次のメリットが得られ、ビジネスの発展・変革にもつなげられます。
- ・生産性の向上
- ・コスト削減
- ・データ統合管理による経営分析機能の強化
- ・セキュリティ事故の回避
- ・新しい顧客価値やビジネスモデルの創出
DXの手段は多岐にわたります。そのため、DXに取り組むには、企業ごとの課題やビジネスニーズに合わせて戦略を定め、適切な手段を選択する必要があります。基幹システムのDXでお悩みなら、ぜひGeNEEまでご相談ください。貴社のビジネスニーズに合わせ、DX戦略策定から実行までを一気通貫で支援いたします。
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