公開日:2024.01.24 更新日:2024.01.30

人間中心設計/ユーザ中心設計はシステム・アプリ開発に何をもたらすのか

GeNEE_人間中心設計の考え方

ITテクノロジーが急速に進化する中、システム・アプリ開発は単なる技術的優位性を目指すだけではなく、ユーザーエクスペリエンス(UX)の重要性が高まっています。

そのなかで注目を集めているのが、「人間中心設計」です。

人間中心設計は、別称ではユーザ中心設計と呼ばれており、従来の技術中心の開発手法では見過ごされがちだったユーザーの声やニーズに着目し、ユーザ視点からプロダクトやサービスを構築するアプローチとなります。

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人間中心設計とは何か

人間中心設計は英語表記ではHuman-Centered Design、頭文字を取ってHCDと呼ばれることが多いです。Humanの部分をUserに置き換えてUCDと読んだりもします。この人間中心設計は、エンドユーザである人間の特性や状況に合わせて最適化していくシステム設計開発手法であり、国際規格であるISO9241-210で定義されています。

これまで大半のプロダクト開発、サービス開発では技術中心主義の設計が施されていました。実際にシステムを利用する人間の視点での検討が足りておらず、ユーザーにとっては使い勝手の悪いシステムが完成してしまっていたという反省があります。

技術中心的思考で、いかにエンジニアリング視点では洗練された機能を実装していたとしても、実際にシステムを使用するユーザーにとっては操作性が難解だったり、本当に欲しい機能が足りていなかったりしていたのです。

対して人間中心設計では、デザイン開発プロセスの初期段階から実際のユーザーの意見を取り入れ、完成するシステムの使用場面を想定した上での要件定義を推奨しています。豊富なユーザー調査と人間特性の分析を基に、直感的でわかりやすいUIを目指す事を目指します。

具体的には、ペルソナ設定や使用シナリオの描写といった手法を用いた人間理解を第一に置き、ユーザビリティテストを継続して回し続けるイテレーション型で改善を加えていくスタイルがスタンダードになりつつあります。

最近では参加型デザインも注目されています。設計プロセスに実際の利用者を加えて開発されるサービスが実際のユーザーニーズに沿ったものかどうか、使い勝手はどうか等を確認するデザイン手法のひとつです。 このように、人間中心設計とは優れたユーザビリティの実現を重視し、エンドユーザーの立場に立って需要に適合した最適なソリューションを模索する開発/設計思想そのものであると考える事ができます。

人間中心設計の6大原則とは

ISO9241-210では人間中心設計(Human-Centered Design、HCD)に次のような6つの原則を定めています。

原則1/ユーザーやタスク、環境に対する明確な理解に基づいたデザイン

開発するシステムのユーザーを具体的に想定し、しっかりとしたペルソナを作り上げます。それと同時に、開発されたシステムを稼働させる現場の使用環境についても詳細に把握する必要があります。

具体性のあるユーザー目線と現場目線とを同じテーブルに乗せ、双方への理解を深めることで、はじめてユーザーが直面する課題が浮き彫りとなり、より優れたユーザビリティを備えたシステムの構築が実現するという考え方です。

原則2/設計や開発にユーザー視点を取り入れる

この原則は、設計プロセスの初期からユーザーの協力を得て、サービス全体のデザイン開発をしていくことの重要性を示しています。

実際のターゲットユーザーを巻き込んだ会議やワークショップを通じて、生の声や主観を設計に反映するという発想です。

この考え方は、前述の「原則1/ユーザーやタスク、環境に対する明確な理解に基づいたデザイン」をより昇華させることにも繋がります。

例えば、コンセプト設計段階でのグループインタビューやアンケート、試作検討時のユーザビリティテスト、UIデザインのA/Bテストなどを利用者とともに実施することで、より具体的なニーズの発見と適切な要件定義が可能となります。

原則3/ユーザー中心の評価によるデザインの実施と洗練

この原則は、設計されたサービスの評価をユーザー自身に行ってもらい、その評価データをもとに改善を繰り返し、洗練させていく考え方です。

作成したサービスデザインのプロトタイプを実際のターゲットユーザーに触れてもらい、その感想を開発現場へフィードバックし、意見を取り入れた形で適宜PDCAサイクルを回し、より高いユーザービリティを実現する事を目的とします。

つまり、ユーザー視点の意見に基づいてサービスデザインをブラッシュアップすることで、人間中心の観点から最適化されたプロダクトを生み出すことができる、という考え方です。

ここで重要となるのは「全ての工程にユーザー目線を取り入れて、ユーザー評価を適宜反映させ続ける」ということです。

原則4/プロセスの繰り返し

4つめの原則である「プロセスの繰り返し」とは、デザインプロセスにおいてPDCAサイクルを1回だけ回して終わりにはせず、複数回の繰り返しを通じてブラッシュアップし続けることにで、より優れたユーザビリティを実現するという考え方です。

要件定義、設計、プロトタイピング、評価・テスト、改良、という一連のフェーズを複数回反復しつつ徐々に完成度を高めていきます。

1回のサイクルごとにユーザー視点のフィードバックを取り入れ、次回の作業へ活用することで、好循環に繋がります。

この方式の利点は、設計初期から最適なユーザーニーズを予測することの難しさを回避し、試行錯誤を経ながらサイクルを回す形で、最適解に近づける点にあります。

どうしても時間はかかりますが、確実な質の向上が見込めるというメリットは非常に大きいと言えます。

つまりこの「プロセスの繰り返し」は、ユーザー視点によるブラッシュアップの取り組みを一過性のものとせず、反復的アプローチを通じて磨き上げることの大切さを示した原則であるといえます。

原則5/ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン

「ユーザー体験(UX)全体に取り組むデザイン」とは、単に操作性や機能面の改善だけでなく、サービス利用に対するユーザーの「使いやすい」「快適だった」という体験(UX)も視野に入れた上で、開発するシステムの最適化を図るべきだという考え方です。

ユーザーがサービスやシステムと向き合う全プロセス〈認知→選択→利用開始→日常的操作→更新や切替え→利用終了に至るまで〉を一貫した「ユーザー体験(UX)」であると捉え、優れたユーザー満足度の実現を図ることが重要視されます。

表面的なデザインの改善に留まることなく、サービスブランディングとの整合性やカルチャー面の訴求効果、ユーザーとの長期的な信頼関係構築までも視野に入れたデザインを心がけることが重要です。

原則6/学際的なスキル・視点を含むデザインチーム

「学際的なスキル・視点を含むデザインチーム」とは、設計チームに単一分野の専門家だけでなく、多様なバックグラウンドを持つメンバーを配置することのメリットを示唆したものです。

例えば、認知科学者、人類学者、心理学者といった学術的視点を持った専門家チームとデザイナーやエンジニアが連携することで、人間の行動や思考プロセスに関する理解が深まりやすくなると考えられます。

また、アートや文芸分野の視点を取り入れることで、ユーザー体験への洞察力が向上し、感性価値と機能価値の高い調和が実現しやすくなるといったメリットも存在します。

さらには、当事者意識や生活者感覚に知見を持った有識者やシステム使用を想定されるユーザー自身をメンバーに加えることにより、多様な視点の集約がより深まり、優れたシステムサービスを生み出す原動力になりうるという原則です。

GeNEE_UI/UXデザインとユーザビリティ向上施策

人間中心設計によるユーザビリティの向上について

現在のシステム・アプリの開発現場では、旧来の技術中心の設計手法に代わり、人間中心設計の導入が急速に進んでいます。

その背景には、システムやアプリが生活の中の当たり前になる中で、よりユーザーに寄り添った操作性や使い勝手の向上への要請が高まっている事情があります。

人間中心設計とは、製品やサービスの設計プロセスにおいて、最終的なエンドユーザーの特性や状況に適合することを目的とする手法です。

設計プロセスからのユーザー参加によるニーズ抽出やユーザビリティ評価を通じ、インタフェースの分かりやすさと習熟のしやすさを最適化することで、システム全体の使い勝手向上を図ろうとするアプローチです。

例えば、システム利用現場での作業工程や動線調査などの手法を用いた利用実態の把握、シナリオ検証やプロトタイプテストを通じたUI改善、心理測定学的評価結果に基づく操作性最適化などをシステム開発の初期から織り込むことが挙げられます。

人間中心設計をシステム開発に取り込む最大のメリットとして、学習コスト・ストレス低減によるユーザーエンゲージメント向上、失敗率低下での作業効率改善、直感操作性によるUIへの親和性向上など、様々な側面で優れたユーザビリティをユーザーに届けられることが挙げられます。

人間中心設計によるUI/UXの改善について

システム・アプリ開発において、ユーザーインターフェース(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)の重要性が叫ばれるようになり久しいですが、そこで重要な役割を果たすのが人間中心設計の考え方です。

ユーザーの視点や状況に合わせてシステムを設計する手法である人間中心設計は、UI/UXの改善に非常に高い親和性があります。

例えば、作業のシナリオやストーリーボードを事前に作成し、UIのプロトタイプをユーザーにテストしてもらうことで、使いにくい点やストレスになる点を抽出し、繰り返しユーザーからフィードバックを取り入れることで、直感的で親しみやすいUIを実現できます。

また各種デザインガイドラインや人間工学の知見を取り入れることで、システム画面上のフォント種類やサイズ、オブジェクトの配置やボタンの形状・色使いといった細部のUI要素も、読みやすさや分かりやすさの面で最適化可能です。

その結果、学習コストが下がり、あらゆるユーザーがストレスなく、本来であれば上級者向けの機能でもスムーズに活用できるようになるなど、システム全体としての習熟性が大きく向上します。

このように、人間中心設計に基づいてユーザー視点を最大限取り入れることで、直感的で魅力的なUI/UXが実現し、結果として機能を十分に発揮できる優れたシステムを実現する事ができます。

時として「人間中心設計=UX」のような誤解をされることもありますが、前述の通り、人間中心設計は優れたUXを実現する為の手法のひとつであると言えます。

GeNEE_人間中心設計のプロセス

人間中心設計のプロセス一例

では、人間中心設計をシステム・アプリ開発に取り入れる場合、どのようなプロセスで進めていけばよいのでしょうか。

ここでは一例として、5つのステップからなる人間中心設計による開発プロセスをご紹介します。

ステップ1/ニーズと課題の把握

ターゲットとなる利用者をインタビューやアンケートでリサーチすることで、ユーザーからのリアルなニーズ、課題などをデータとして蓄積・把握し、ユーザーの要望を理解します。

ステップ2/分析と要件定義

ステップ1の「ニーズと課題の把握」で集めたデータを分析し、システム開発に落とし込むべき要件としてユーザーの要求を定義します。この定義作業では、架空のユーザーをより具体的に想定するペルソナ設計を使用することで、より高い成果が得られます。

ステップ3/設計

ステップ2の「分析と要件定義」を経て、設計段階に入ります。デザイン試作を重ねながら要件定義をブラッシュアップし、分析されたユーザーの要求を満たすサービスのアイデアスケッチやプロトタイプ制作への道筋を策定します。

この段階でも、より具体的なユーザーのペルソナが定義されていることが、ユーザーに寄り添った設計を実現する為に重要な役割を担います。

ステップ4/ビルドとテスト

ステップ3の「設計」を経て、ユーザーの要求を反映した素材やデザインデータを作成し、実際に試作品をビルドします。そこからユーザーテストと改良を繰り返し、本番運用へ繋げます。

ステップ5/運用と改善管理

ステップ4の「ビルドとテスト」工程にてブラッシュアップを繰り返した後、いよいよシステム・アプリの本番運用を開始します。

しかしながら、本番運用を開始した後も人間中心設計のプロセスは続きます。実際に様々なユーザーからのフィードバックを受けながら、常に改良とテストのプロセスを繰り返す事で、そのシステムは常に高いユーザー満足度を維持することが出来るのです。

これらのプロセスは一例であり、プロジェクトに応じてカスタマイズが必要です。しかし基本は「ユーザーのためのシステム・アプリ」の実現を目指すものです。人間中心設計を適切に取り入れ、常にUX向上を図る必要があります。

まとめ

改めて、人間中心設計がシステム・アプリ開発にもたらすものとは何かを、3つの項目に分けてまとめます。

1つ目は、ユーザビリティと使いやすさの向上です。人間工学的な知見に基づいて画面上の文字サイズ、ボタン配置、インタフェースの直感性などを最適化できるため、誰しもがストレスなく当該のシステム・アプリを利用できるようになります。特にユニバーサルデザイン視点での問題解決にも寄与するため、より多くの人にとってのアクセシビリティが高まります。

2つ目は、UI/UXの統一性と一貫性の確保です。人間中心設計をシステム開発プロセス全体に浸透させることで、ユーザーにとってUIや操作性の違和感がなくなり、サービス利用の場面を通じて統一的なユーザーエクスペリエンス(UX)を提供できるようになります。ユーザーに対して、高い満足度を提供する事が出来るでしょう。

3つ目は、ユーザーとの共感関係の醸成です。ユーザーの立場を尊重し様々な角度から寄せられる不満や要望を設計に反映させる姿勢が、ブランドへの信頼感獲得に繋がります。

このように、人間中心設計はシステム・アプリ開発に大きなメリットをもたらし、機能面だけでなく心理面でも高い満足度を獲得し、UX全体の底上げに寄与する重要なアプローチであると結論づけることが出来ます。

システム開発やアプリ開発のプロジェクトにおいて最重要要素であるUI/UXデザイン。弊社はただシステムやアプリを設計・開発するだけでなく、ユーザの反応等を確かめながら正確にデザイン設計も進めております。「新規事業としてアプリ開発を検討している。」、「今のシステムの操作性が非常に悪く、従業員から沢山のクレームが届いている。」そのようなお悩みをお持ちのご担当者様は是非GeNEEまでお気軽にご相談いただけたらと思います。お客様のニーズや将来的な事業方針をヒアリングした上で最適な開発手法をご提案いたします。こちらの問い合わせフォームからお気軽にお問い合わせください。

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