
目次
DXの進展により、顧客データの活用はマーケティングや事業戦略の中核を担う一方で、個人情報や機密データの取り扱いに対する不安も高まっています。
本記事では、顧客データを安心して活用するために不可欠なセキュリティ診断の役割を、マーケティング施策・経営課題・内部統制の視点から掘り下げます。

DX推進で顧客データ活用が進むほど高まるセキュリティリスク

DXの推進やマーケティング高度化により、企業が扱う顧客データは年々増加し、その活用範囲も広がっています。一方で、データ活用を急ぐあまり、セキュリティやガバナンスが十分に設計されないまま施策が進んでいるケースも少なくありません。
本記事では、マーケティング施策に潜むセキュリティリスクから、情報漏えいが経営に与える影響、そしてDX時代に求められるガバナンスの考え方までを整理します。顧客データを継続的に活用するために、今あらためて見直すべき視点を解説します。
パーソナライズやデータ連携が前提となるマーケティング施策の実態
顧客の属性や行動に応じたパーソナライズ、チャネルをまたいだシームレスな顧客体験の提供には、以下のような高いセキュリティ水準が求められます。
| 活用シーン | 必要とされるセキュリティ対応 |
| Webサイトでのパーソナライズ | Cookie管理、匿名加工処理、同意取得(CMP) |
| CRM・MAツールとのデータ連携 | 暗号化通信、権限管理、アクセスログの取得 |
| クラウド環境でのデータ蓄積・分析 | ストレージの保護、リージョン設定、SaaS設定の最適化 |
クラウド・API・SaaS活用によって広がる攻撃対象範囲
マーケティング活動は、ひとつのシステム内で完結することはほとんどありません。
以下のような複数サービス・ツールの連携が前提となっています。
- CRMとWebフォームの連携
- MA(マーケティングオートメーション)と広告プラットフォームの接続
- 分析基盤とBIツールの連動
- ストレージと外部SaaSとの連携
このような構成においては、セキュリティ対策の「すき間」こそが最も狙われやすいポイントになります。例えば以下のようなリスクが生じやすくなります。
- アプリ間で権限が適切に引き継がれず、不必要なアクセス権が付与されている
- APIの認証設定が不完全で、外部から情報が取得可能な状態になっている
- クラウド間でデータが暗号化されずにやり取りされている
一元的な設計管理がされていない中で複数ツールを並列運用している企業ほど発生しやすい傾向にあります。セキュリティ診断では、単体の脆弱性ではなく、システム間のつながりに生じる構造的リスクを可視化することが求められるでしょう。
関連記事:DXシステム開発の初期段階で重要な『セキュリティ診断』
マーケティング施策に潜む「見落とされがちなセキュリティリスク」

データドリブンなマーケティングが一般化する一方で、その裏側に潜むセキュリティリスクは十分に認識されているとは言えません。Webフォームや外部ツール、SaaS連携など、施策を高度化するほど顧客データの流通経路は複雑です。
こうした現場主導の取り組みこそ、意図せずリスクを内包しやすいです。ここでは、マーケティング施策特有の視点から、見落とされがちなセキュリティリスクを整理します。
Webフォーム・メール・SNS連携に潜むリスク例
デジタルマーケティングが進化するほど、企業と顧客の接点は増加します。これはマーケティング成果にとってはプラスですが、セキュリティの観点では新たなリスクが次々と発生する構造でもあります。
| 顧客接点 | 潜在的なリスク例 |
| Webフォーム(問い合わせ・資料請求) | SQLインジェクション、CSRF攻撃 |
| メールマーケティング | フィッシング、マルウェアリンクの混入 |
| LINE連携やSNSキャンペーン | 外部APIの認証不備、情報漏えい |
| ポップアップやクーポン表示 | DOMベースXSS、意図しないCookie取得 |
ノーコード・外部ツール導入が引き起こす統制不全
また「ノーコードで簡単に実装できる」とされるマーケティングツールの多くは、セキュリティの前提条件を満たしていない場合もあります。機能優先で設計されたUIの裏側に潜む脆弱性に気づかず、知らないうちに攻撃対象範囲が拡大しているケースも少なくありません。
マーケティング部門がIT任せにしてはいけない理由
マーケティング部門がリード獲得やLTV向上を狙って進めるデータ活用。そこで取り扱われる顧客情報の大半は、氏名、連絡先、購買履歴、アクセスログなど機微な個人情報を含みます。こうした情報の管理をIT部門任せにしている企業もありますが、顧客接点の設計自体にセキュリティリスクが組み込まれている場合が多いことは見落とされがちです。
セキュリティ診断は、技術検証だけでなくマーケティング戦略そのものの一部として組み込むべき工程です。顧客の信頼を損なわず、継続的にデータを活用していくためには、最初の設計段階でリスクを洗い出す必要があります。
このように、マーケ施策は「現場主導」だからこそ、ガバナンスが存在しないとセキュリティ上の問題が露呈します。次章以降、情報漏えいが経営に与える影響や企業全体としてどのようにセキュリティ診断をすべきか解説していきます。
情報漏えいが企業ブランドと経営に与える深刻な影響

情報漏えいは単なるシステムトラブルではなく、企業ブランドや経営基盤そのものを揺るがす重大なリスクです。顧客データの流出は、直接的な損害だけでなく、信頼低下や取引機会の喪失といった長期的な影響をもたらします。
特にDXを推進する企業ほど、扱う情報量は増え、影響範囲も広がります。ここでは、情報漏えいが経営に与える影響を整理し、なぜ経営視点で捉える必要があるのかを解説します。
コスト情報漏えい事故がもたらす主な影響
情報漏えいは、単なるセキュリティインシデントにとどまりません。企業の信頼、そしてブランド価値そのものを揺るがす重大事です。
情報漏えいが引き起こす主な影響
- 金銭的損失:個人情報保護法違反による制裁金、顧客補償費用、訴訟対応など
- 事業への影響:一時的な営業停止、外部との連携停止、キャンペーンの中断
- ブランド毀損:報道やSNSによるネガティブイメージの拡散、顧客離れ、株価の下落
- 内部への影響:社員のモラル低下、情報統制の混乱、追加対応にかかる人件費・工数
一度の事故で数千万円〜数億円規模の損害が発生するケースも珍しくありません。特にBtoC企業においては、顧客の信頼を失うこと自体が長期的な収益に直結するため、予防的な対策の重要性が高まっています。
「使えるデータ」だけでなく「守れるデータ」が問われる時代
これまでデータ活用の議論では、「どんなデータを集めるか」「どう分析に活かすか」といった活用面にばかり焦点が当てられてきました。しかし今、企業が持つデータが本当に資産と呼べるかどうかは、『守れるかどうか』で判断される時代に突入しています。
現在のトレンド
- パーソナルデータの取扱いに関する社会的な視線の厳格化
- GDPRや改正個人情報保護法などの法規制強化
- 顧客やビジネスパートナーからのセキュリティ体制に関する開示要求の増加
企業が信頼されるには、「セキュアな環境下でデータを適切に扱っている」という客観的な根拠の提示が不可欠です。つまり、どれだけ高度なAIを導入し、膨大なデータを蓄積していたとしても、「守れていないデータ」はビジネス上のリスクに直結するのです。
DX時代に求められるセキュリティは「ガバナンス」の問題である

DXが進展する中で、セキュリティはもはやIT部門だけで完結する課題ではありません。複数の部門や外部サービスが関与する現在のシステム環境では、技術対策だけでなく、組織としての統制や意思決定の仕組みが問われます。
セキュリティ事故の多くは、技術的な欠陥だけでなく、ガバナンス不在によって引き起こされます。ここでは、DX時代におけるセキュリティを「ガバナンス」の観点から捉え直します。
サイバーリスクはIT部門の課題では済まされない
サイバー攻撃の巧妙化と社会的影響の拡大により、セキュリティ対策はもはやシステム担当者だけの責任では済まされなくなっています。個人情報保護法やGDPRなどの法令が厳格化し、ひとたび漏えい事故が起きれば、事業の継続にすら影響を与えかねません。
現代において、セキュリティ診断は経営判断に直結するガバナンスの一部として捉えるべき領域です。診断の実施有無が、コンプライアンス遵守の姿勢や企業のリスクマネジメントレベルを映し出す指標にもなっています。
近年、経済産業省や金融庁のガイドラインでも繰り返し示されているのが、サイバーリスクは経営レベルの課題であるという前提です。
| 項目 | 担当範囲の推移 |
| システム障害対応 | 情報システム部門内の問題 |
| 標的型攻撃への防御 | IT部門とCSIRTの連携 |
| 顧客情報の漏えい | 経営層が説明責任を負う重大インシデント |
| グループ全体の統制・監督 | 取締役会や監査等委員会が監督すべき課題 |
経営層がリスクの所在や影響範囲を理解せず、セキュリティ対策をすべて現場に任せている状態は、重大事故を未然に防ぐことができない体制と同義です。
セキュリティ診断を経営の定例報告や監査プロセスに組み込むことで、トップマネジメントがリスクに対して具体的な行動を起こせる状態を整える必要があります。
法務・監査・コンプライアンス観点からの診断体制の重要性
セキュリティ診断の目的は、単に技術的な脆弱性を洗い出すことではありません。情報の取扱いにおけるルール・体制・記録の整備状況を、第三者の視点で可視化することが求められます。
以下の部門が関与することで、診断はより実効性のある「ガバナンス強化策」として機能します。
- 法務部門
利用規約・プライバシーポリシーとの整合性、外部委託契約のセキュリティ条項確認 - 監査部門
セキュリティ対応の運用実態や記録のトレーサビリティ、過去の対応履歴の監査 - コンプライアンス部門
社内ルールの遵守状況、教育・研修の実施状況、罰則運用の妥当性の検証
上記の観点からの関与がなければ、診断結果が現場の課題にとどまり、組織全体の対応につながらない恐れがあります。技術面だけでなく、組織統治の仕組みとしてセキュリティ診断を位置づけることが、法令順守や社会的信頼の確保に直結するでしょう。
関連記事:システム監査がもたらす安心:バグや不具合を未然に防ぐ方法
ITガバナンスとセキュリティ診断をどう結びつけるべきか

ITガバナンスとセキュリティ診断は、効果的なリスク管理と法令遵守を確実にするために統合的かつ継続的に結びつける必要があります。ここでは形式な対応にとどまることなく、確実にリスクを顕在化させるための方法をご紹介します。
内部統制・ISMS・個人情報保護対応との関係
企業によっては、すでに内部統制報告制度や情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の認証を取得している場合もあります。しかし、運用が「形式的な対応」にとどまっていれば、実質的なリスクマネジメントとはいえません。
セキュリティ診断が連携すべき主な管理体制
| 管理領域 | 連携が求められる視点 |
| J-SOX(内部統制報告制度) | IT全般統制におけるアクセス管理やログ監査 |
| ISMS(ISO27001) | リスクアセスメントと是正処置の妥当性 |
| Pマーク/GDPR対応 | 個人データの取得・利用・保管・破棄プロセスの透明性 |
単体診断ではなく「つながり」を見る必要性
データの流通経路が複雑化する中で、単一システムだけを守っても意味がなくなっているのが現実です。特に外部とのAPI連携やSaaS活用を進めている企業では、つながりそのものがリスクになるケースも少なくありません。技術面だけでなく、運用・統制・人材教育なども含めた総合的な対策が求められます。
各種管理体制とセキュリティ診断をつなげることで、単独では見落とされがちな横断的なリスクが顕在化します。部署横断・階層横断での検証体制が確立すれば、インシデント予防にとどまらず、組織の信頼性を支える中核的な要素となります。
セキュリティ診断の導入を判断するためのチェックポイント

セキュリティ診断の必要性は理解していても、「今すぐ導入すべきかどうか」「現状でどこに課題があるのか」が見えにくい企業も少なくありません。形だけの対策や、担当部門だけが行う局所的な取り組みでは、ガバナンス強化の本質にはつながりません。
そこで重要になるのが、自社の状況を客観的に見直す視点です。
ここでは、セキュリティ診断の導入を判断する際に検討すべき、3つの基本的なチェックポイントを紹介します。いずれも、表面的な「対応済み」の判断ではなく、実際の運用実態に即した深掘りが求められます。
現状のデータ取り扱いプロセスに抜けはないか
最初に確認すべきなのは、データの収集から保管、活用、破棄に至る一連のプロセスが適切に設計・運用されているかという点です。特に顧客データを扱う企業では、次のような項目を精査する必要があります。
| プロセス項目 | チェックポイント例 |
| 収集(取得) | 利用目的が明示されているか、同意取得が適正に行われているか |
| 保管(保存・管理) | 保存先のアクセス制御、暗号化、ログ取得が適正か |
| 利用(分析・活用) | 利用範囲が目的に沿っているか、業務委託先との契約内容は適切か |
| 破棄(削除・廃棄) | 不要データの削除ルールが存在するか、適切に運用されているか |
上記のプロセスのどこかに曖昧さや抜けがある場合、仮に高度なセキュリティ対策を導入していても、リスクを完全に排除することはできません。診断の導入前には、こうした基本プロセスを可視化し、運用レベルまで確認することが重要です。
既存のセキュリティ施策と診断の役割が分離していないか
多くの企業では、すでにファイアウォールやウイルス対策ソフト、アクセス制御といった基本的なセキュリティ施策が導入されています。しかし、その運用と診断業務が切り離され、全体の整合性が取れていないケースが少なくありません。
よくある分離の例
- 脆弱性診断をIT部門が年1回実施するが、施策への反映やレビューが行われていない
- クラウド環境の設定監査が別チームで実施され、共有もされていない
- セキュリティ対策製品の導入が目的化しており、評価指標が不明瞭
こうした状態では、セキュリティ施策が「動いているか」ではなく、「機能しているか」の検証ができません。診断は単なるチェックリストではなく、導入済みの施策が実際に効果を発揮しているかどうかを評価するためのものです。既存対策と診断の連動を意識することで、組織全体としてのセキュリティレベルが底上げされるでしょう。
経営層と現場で守るべき情報の認識にギャップがないか
情報セキュリティの現場では、経営層と実務担当者の間で「何を守るべきか」の認識が一致していないケースが多く見られます。このギャップが、最も深刻なリスクの温床になります。
| 視点 | 認識のずれが起きやすい例 |
| 経営層 | 顧客情報・機密情報・業績データなどが最重要と認識している |
| 現場(マーケ、CSなど) | 顧客とのやり取りや販促資料を気軽に外部共有、SaaSを無断導入している |
特に、マーケティングや営業部門で利便性を重視するあまりにセキュリティルールを逸脱する「シャドーIT」の増加は、組織の統制を困難にします。
セキュリティ診断では、部門横断で「守るべき情報」とその理由を再確認する作業も重要なプロセスです。経営層と現場の意識をそろえることで、セキュリティが「一部門の取り組み」から「全社的な文化」へと進化します。
セキュリティを整えることがDXを前に進める理由

セキュリティ対策は、DXを阻害するコスト要因として捉えられがちですが、本来はデータ活用を支える重要な基盤です。安心して顧客データを扱える環境が整ってこそ、新たな施策や外部連携にも踏み出せます。セキュリティとガバナンスを適切に整えることは、守りにとどまらず、DXを継続的に前進させるための前提条件です。ここでは、その理由を整理します。
セキュリティ体制がデータ活用を加速させる
高度なデータ分析やパーソナライズ施策を推進するには、信頼できるデータが不可欠です。信頼性の高いデータとは、正確で網羅的であることに加えて、安心して活用できる状態に保たれていることも含まれます。
セキュリティ体制が整っている企業では、以下のような好循環が生まれやすくなります。
- 顧客からの情報提供に対する心理的ハードルが下がる(信頼に基づいた入力)
- 社内でのデータ連携に対する不安が少なくなる(部門間の協力が進む)
- 外部SaaSやAIツール導入の判断がスムーズになる(リスク評価基準が明確)
逆に、セキュリティに対する不安が残る企業では、「データはあるが使えない」「共有したくても止められる」といった内部の萎縮がボトルネックになります。診断を通じて体制を整えることが、実際のデータ活用を加速させるための現実的なスタートラインとなります。
関連記事:ゼロトラストセキュリティ:企業が今すぐ導入すべき理由と最新事例
DX投資・外部連携を支える信頼の基盤
DXによって業務や顧客接点が高度にデジタル化する一方で、その裏側には、個人情報・業務データの保護という企業の責任と覚悟が問われる時代が到来しています。データを活用して新たな価値を生み出そうとするのであれば、まず問われるべきは「どこまで守れるか」という姿勢です。
セキュリティ診断は、単なるリスク洗い出しの作業ではありません。顧客やパートナーに対して「私たちはこの情報を適切に扱います」と明示的に信頼を示す行為であり、データ活用における出発点です。
顧客視点に立ったサービス提供や、柔軟な外部連携を進めるには、セキュリティという目に見えない信頼がなければ成り立ちません。守るべき情報を明確にし、それを支える技術と体制を可視化する。そうした取り組みを積み重ねた先にこそ、攻めのDXと持続的な成長が見えてきます。
データ利活用の真価は、信頼という下支えがあってこそ発揮される。その第一歩として、セキュリティ診断の導入を前向きに捉えることが、次世代のDXを切り拓く鍵となるはずです。
まとめ
DXやマーケティング施策の高度化は、顧客データの活用を前提としています。しかし、データを「使える」ことと「安心して使い続けられる」ことは同義ではありません。セキュリティやガバナンスが不十分なままでは、短期的な成果が出たとしても、長期的な信頼や事業成長は望めないでしょう。
本記事で見てきたように、セキュリティは単なる技術対策ではなく、組織全体でどう統制し、どこに責任を持つのかというガバナンスの問題です。特にマーケティング施策のように現場主導で進みやすい領域ほど、設計段階でのリスク整理が欠かせません。
顧客データを継続的な価値創出につなげるためには、「守れるデータ基盤」を前提にDXを設計することが重要です。自社の取り組みがどの段階にあるのか、どこに見落としがないかを整理したい場合は、第三者視点での診断や壁打ちが有効なケースもあります。まずは現状を可視化することから、次の一手を検討してみてはいかがでしょうか。

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