
目次
新規事業の成否を分けるのは、最初の「つくり方」ではなく、「どう判断するか」です。MVP(Minimum Viable Product)は本来、仮説を検証し意思決定を支援するための手段であるはずが、多くの企業ではとりあえず作ることで終わってしまい、結果的に失敗を招いています。
本記事では、失敗が許されない大企業・中堅企業の新規事業において、MVP開発を意思決定のフレームとして活用し、リスクを最小化しながら段階的にスケールさせるアプローチを解説します。

新規事業における「開発の失敗」パターンとその背景

大企業や中堅企業の新規事業開発は、失敗の許容度が極めて低いです。市場に出す前に結果を出すことが求められ、さらに関係者も多いため、意思決定には慎重さとスピードの両立が求められます。しかし、多くの失敗は、開発フェーズに入る前の「判断の質」の低さに起因しています。
ここでは、よくある失敗パターンとその背景にある構造的な課題を整理しましょう。
仮説が検証されないままプロダクト開発に突入
「良さそうなアイデア」に予算とリソースを注ぎ込んでも、事業成果につながらないケースは後を絶ちません。理由はシンプルで、仮説が検証されないままプロダクト開発に突入してしまうからです。
失敗になる傾向
| よくある失敗 | 背景にある課題 |
|---|---|
| 斬新なアイデアを形にしたが、顧客に使われなかった | ペルソナの行動ニーズを検証せずに実装を開始 |
| 多機能で高品質なアプリを作ったが、初期離脱が多かった | MVPではなく完成品思考で開発が進んだ |
| 他社事例を参考にしたが、自社市場で機能しなかった | 自社の市場仮説が曖昧なまま展開 |
こうした失敗は、意思決定のタイミングと情報量に問題があることが多く、「作る前」に問い直すべき問いが欠けていることが原因です。
実装前に方向性を誤ると、軌道修正できない構造的な課題
最もコストがかかるのは「作り直すこと」ではなく、「間違った方向に進んでから止まれないこと」です。一度開発が始まると、外注契約・ステークホルダー・開発体制の制約から、方向転換が難しくなります。
3つの構造的な問題
- コンセプトの抽象度が高く、要件がぶれる
→「何を実現したいのか」が明確でないまま設計に入ると、要件変更が頻発します。 - 誰のどの課題を解決するのかが曖昧
→仮説設定があいまいなため、フィードバックを受けても評価軸が定まらない状態に。 - 定量評価の設計が不在
→感覚的な「いけそう」「よさそう」で判断され、可視化が難しいまま実装が進行。
結果として、「早期に方向性を確かめるためのMVP」がない状態で走り始めてしまい、後戻りできないフェーズに入ってから問題に気づくことになるのです。
リスクを技術で解決しようとしてしまう思考
技術的な完成度を高めることで、事業リスクも減らせると考えるのは大きな誤解です。新規事業における本質的なリスクは、技術ではなく「需要があるかどうか」「継続的に使われるかどうか」にあります。
以下のような「技術依存型の思考」に注意が必要です。
- 最新技術(AI・ブロックチェーンなど)を採用すれば価値が出る
- 操作性やUIさえ優れていればユーザーが定着する
- プロダクトが動けば市場に通用するかが判断できる
こうした発想では、仮説検証が後回しになり、「高性能だが誰も使わないプロダクト」が生まれてしまいます。リスクの本質を見誤ると、技術への投資が無駄になり、意思決定の根拠もあいまいになるでしょう。
「プロダクトをとりあえず作る」から脱却するには何が必要か

新規事業開発の現場では、「まずは作ってみよう」「出してみなければ分からない」といった声が飛び交いがちです。現場のスピード感や熱意の裏返しではありますが、このような姿勢が「とりあえず作ること」を目的化させてしまうと、本来必要な仮説検証や意思決定の土台が置き去りになります。
MVP開発とは、本来「最小限のコストと工数で、事業成立の鍵を握る仮説を検証するプロセス」です。
ところが、現実には以下のように目的と手段がすり替わってしまうケースが多く見られます。
| よくある開発の進め方 | 本来取るべき検証重視の進め方 |
|---|---|
| アイデアをもとに仕様を詰めて一気に開発 | 仮説を明文化し、最小単位で検証設計 |
| ユーザー調査をせず、完成度を重視 | 実利用を想定したプロトタイプで早期に反応確認 |
| 上層部へのプレゼン資料として機能重視のMVPを作成 | 意思決定に必要なデータ取得のためにMVPを設計 |
| 開発後にフィードバックを取るが判断に使えない | 検証結果に基づき、「次の打ち手」を明確化 |
このように、「作ること」が先行してしまうと、何を検証するのかが曖昧になり、フィードバックも判断材料として機能しません。
脱却するために必要なのは、「判断するために作る」という発想の切り替えです。仮説を明文化し、どの仮説が当たっていれば前に進むのか、逆に外れていた場合にどう軌道修正するのかをあらかじめ想定しておく必要があります。
加えて、開発に取りかかる前に「誰のどの課題に対して、どんな行動を引き出すことを目標とするのか」を定義しなければなりません。つまり、検証すべき問いと、問いに答えるための観測手段をセットで設計することが求められます。
意思決定を支えるMVP開発フレームの3つの構成要素

新規事業においてMVPを導入する最大の意義は、プロダクトを作ることではなく、仮説を検証し、事業判断の材料を手にすることにあります。判断を支える情報をいかに設計段階から織り込めるかが、MVPの質を左右します。
ここで紹介する3つの構成要素は、意思決定を目的としたMVP開発に必要不可欠な要素です。ただ作って試すのではなく、「判断できる形」で進めるための視点として整理しておきたい考え方です。
仮説を検証するための「プロトタイプ設計」
プロトタイプは「形にすること」が目的ではなく、「仮説を明らかにすること」が本来の役割です。そのためには、検証したい仮説を明確にし、プロトタイプに何を盛り込むかを厳密に決めていく必要があります。
検証すべき仮説の種類
| 仮説の種類 | 検証の目的 | 主な手法 |
|---|---|---|
| 顧客ニーズ仮説 | 想定している課題が本当に存在するか | インタビュー、観察調査 |
| ソリューション仮説 | 解決策として適切か、受け入れられるか | ワイヤーフレーム、UIモック |
| 利用行動仮説 | 実際に使ってもらえるか、継続されるか | 簡易アプリ、クリックテスト |
特に重要なのは、「検証できる設計」にすることです。デザインやUIの完成度に意識が向きすぎると、検証すべき要素が曖昧になるでしょう。
複数シナリオの比較検討が可能な「MVP設計マトリクス」
意思決定において「比較対象がない状態」は最も危険です。単一のMVPを出して反応を見るだけでは、「それが最適だったのか」「他の案と比べてどうだったのか」が分からず、判断材料としては不十分です。
この課題に対応する手段として有効なのが、「MVP設計マトリクス」です。
| 観点 | 案A(シンプルUI版) | 案B(機能追加版) | 案C(課金モデル) |
|---|---|---|---|
| 実装コスト | 低 | 中 | 高 |
| 仮説の検証精度 | 中 | 高 | 中 |
| ユーザー反応 | ○ | △ | × |
| 継続利用意向 | △ | ○ | × |
このように複数のMVP案を並列で設計・比較することで、意思決定に必要な「相対評価の視点」が得られるでしょう。特に初期段階では、「捨てることができる案」を用意しておくことが、冷静な判断を促します。
PoCとMVP、それぞれの役割と使い分けに明確な境界線を引けているでしょうか?この2つの混同は、開発後の「なぜ失敗したか分からない」という事態につながります。両者の違いと補完関係を整理したい方に、以下の記事がおすすめです。
関連記事:MVP開発とは?開発にかかる期間やコスト、PoCやプロトタイプとの違いについて解説
意思決定に必要な「定量・定性データの収集と可視化」
判断を迫られる場面で、主観に頼った評価しかできない状態は避けるべきでしょう。仮説検証型のMVPでは、事前に「何をもって成功とみなすか(Success Criteria)」を定義し、定量・定性データを収集する必要があります。
代表的な評価指標
| データの種類 | 主な内容 | 取得手段 |
|---|---|---|
| 定量データ | サインアップ率、継続利用率、クリック率など | アナリティクス、ログ解析 |
| 定性データ | 利用時の感想、不満点、行動パターン | インタビュー、ユーザーテスト |
また、可視化にも注意が必要です。数値をグラフに落とし込むだけでなく、「その数値が何を示しているか」を解釈しやすい形で整理することが重要です。仮説に対して、どういう結果が出たのか、意思決定にどんな影響を与えるのかまで踏み込んでみましょう。
段階的なスケールアップによる「リスク最小化型」MVP開発の進め方

大規模な投資やリソースを一気に投じるのではなく、段階的に開発を進めていくことが、結果として失敗のリスクを大きく減らす要因になります。特にMVP開発においては、初期段階での判断ミスがプロジェクト全体に波及するため、「小さく試し、学び、次に進む」プロセス設計が極めて重要です。
ここでは、リスク最小化を前提にしたMVP開発の進め方を、3つの視点から見ていきましょう。いずれも共通するのは、「完璧な初期解」を求めるのではなく、学習と改善を前提とした進行設計」です。
小さく作る、すぐ試す、速く直すの繰り返しが鍵
新規事業においては「正しいものを一度で作る」より、「誤ってもすぐに修正できる体制」が価値を生みます。短いサイクルで仮説を検証し、結果をもとに次の打ち手へとつなげる反復的な進め方が、MVP開発の基本です。
基本の運用ステップ
| ステップ | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| Plan(仮説設計) | 検証すべき問いを明確化 | 無駄な開発を避ける |
| Build(小規模開発) | 検証用に必要最小限のMVPを構築 | 早く市場に出す |
| Measure(定量・定性評価) | 使用状況・反応・KPIを記録 | 判断の根拠を得る |
| Learn(学習・改善) | 結果をもとに方向性を再評価 | 次のフェーズへ進む準備 |
このサイクルを数週間単位で繰り返すことで、開発リスクは着実に削られ、次の意思決定に必要な根拠が蓄積されていきます。最初から「完璧なプロダクト」を狙うのではなく、意図的に小さく始め、失敗から学ぶ構えが欠かせません。
限られたリソースで素早く仮説を検証し、柔軟に軌道修正できるかどうかがスタートアップの命運を分けます。MVPの本質的な活用方法を改めて押さえておきたい方には、次の記事もおすすめです。
PoCと実装の間にある中間層をどう作るか
多くのプロジェクトで見落とされがちなのが、「PoC(概念実証)」と本番実装の間にある橋渡しの段階です。PoCで仮説がある程度検証されたとしても、そのまま本番開発に移るのは危険です。
この間に必要なのが「中間MVP」とも言えるプロセス設計です。
| フェーズ | 主な目的 | 推奨アウトプット |
|---|---|---|
| PoC | 技術的・概念的な成立性の確認 | 簡易モデル、動作確認 |
| 中間MVP | 初期ユーザーへの実用検証 | 試験版アプリ、限定公開バージョン |
| 本実装 | 市場投入に耐える仕様への拡張 | 正式版リリース、運用基盤構築 |
この「中間層」の存在があることで、実装時の手戻りや過剰投資を防ぎ、判断のクッションが生まれるのです。特に組織内の稟議や意思決定プロセスが複雑な企業では、この段階的構成が意思決定のスピードと精度を両立させてくれるでしょう。
PoCから本実装へ移行する際に起きやすい「再設計」や「追加要件」の混乱を防ぐには、初期段階での設計戦略が鍵を握ります。具体的にどのように検証フェーズを整理し、MVPと接続させていくのかを詳しく知りたい方は、下記の記事もおすすめです。
関連記事:PoC支援とは?ITコンサルで失敗を防ぎ成果につなげるプロセスを解説
予算と時間の適正化による開発失敗の予防策
MVP開発が失敗する原因の多くは、検証設計ではなく「見積もりの甘さ」にあります。過剰なリソースを投入してしまうと、途中で引き返せなくなり、判断が先延ばしになりがちです。
失敗を防ぐ観点
- 仮説の粒度に応じた予算設定
→ 初期は「検証できるか」にフォーカスし、開発費を抑える - フェーズごとのスケジュール設計
→ PoC・中間MVP・実装で、それぞれ明確な締め切りと評価項目を設ける - 撤退基準と投資継続の条件を事前に明文化
→ フィードバック結果に応じて、やめる/進めるの判断基準を明確化
事業を成功に導くのは、「正確な見通し」ではなく、「途中で止まれる構造」を持っていることです。そのためにも、MVPは予算・時間ともに「縮める」ことを前提とし、段階的に最適化していくべきでしょう。
GeNEEが支援する「意思決定のためのMVP開発」

新規事業の初期フェーズにおいて、何を・どこまで作るべきかという問いに明確な答えを持てずに迷走するケースは少なくありません。MVPは、単に開発コストを抑えるための「簡易版プロダクト」ではなく、本来は事業の仮説を検証し、次の意思決定に必要な根拠を手に入れるためのプロセスであるべきです。
GeNEEが提供するMVP開発支援は、この「意思決定のための構造づくり」に重きを置いています。特徴的なのは、開発ありきで話を進めるのではなく、どの仮説を、どの順序で、どんな手段で検証するかという上流からの設計に力を入れている点です。技術ではなくビジネスの構造から入り、目的に応じてプロトタイプやプロダクトを設計・実装していきます。
具体的には、以下のような一連のプロセスでMVP開発を進めます。
- 仮説と検証項目の設計:事業成立に不可欠な前提条件を洗い出し、検証優先度を明確化
- プロトタイピング:検証に必要な最低限のUIや機能を持つプロトタイプを設計・開発
- フィードバック取得:定量・定性両面でのユーザーテスト、行動観察、KPI計測を実施
- 意思決定支援:取得した検証結果をもとに、続行・ピボット・撤退といった次の判断材料を整理
この一連の流れを通じて、「開発をゴールにしないMVP」=判断のためのプロセスを構築することができます。
またGeNEEは、エンジニアリングだけでなく、ビジネス要件の言語化やUI/UX設計といった「プロダクト以前の部分」に強みを持っており、事業部門や経営層と同じ目線で議論できる開発パートナーです。ただ作るだけでなく、開発を経営判断と結びつける支援体制を持っている点は、多くの外注ベンダーとは異なる強みです。
MVP開発は仮説の正否を知る手段であると同時に、組織としての意思を明確にするためのプロセスでもあります。だからこそ、開発の裏側にある「判断構造」までを設計・伴走できるパートナーの存在が、成功の確度を大きく左右するでしょう。
まとめ:MVP開発は作る工程ではなく判断のためのプロセスへ

MVP開発は、単なるスモールスタートの手法でも、開発コストを抑えるテクニックでもありません。本質的な役割は、「事業として進めるべきか否か」を見極めるための判断材料を生み出すことにあります。
「まず作ってみる」というアプローチが失敗しやすいのは、仮説の不在と、意思決定の軸が曖昧なまま開発に突入するからです。プロダクトが完成しても、評価基準が定まっていなければ、その後の展開が曖昧になります。市場の反応を見てから考えるのではなく、市場に出す前に、何をどう検証するのかを設計するところから始めるべきでしょう。
重要なのは、「開発すること」ではなく、「判断できる状態をどう作るか」という視点です。そのためには、仮説設計、検証プロセス、フィードバックの可視化、そして段階的な意思決定という一連のフレームを開発の中に組み込みましょう。
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東京工業大学環境社会理工学院、慶応義塾大学大学院・慶応義塾大学ビジネススクールMBA(経営学修士取得)卒業。
京都大学経営管理教育部博士課程単位取得退学。国内最大手IT企業の株式会社NTTデータなどでエンタープライズ(大手法人)領域の事業開発・事業企画等に従事。
スタンフォード大学への海外研修を経て、株式会社GeNEEの代表取締役に就任。
基本情報技術者試験、応用情報技術者試験、MBA(経営学修士)、MOT(技術経営修士)等
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