
目次
WEBサービスやアプリサービスといったデジタルプロダクトの開発を検討する際、その仕様や開発方法よりも先に検討すべきポイントがあります。それが、今回解説をするブランディングとUXデザインです。
もちろん、エンジニアが持つ開発技術はWEBサービスやアプリサービスをリリースするために非常に重要な要素ですが、いくら優秀な開発技術を持つエンジニアを招集したとしても、そのデジタルプロダクトが「誰に向けて何を提供して、どんなゴールを想定しているか」の検討が甘いままでは、高機能なのに誰にも届かないデジタルプロダクトが誕生してしまいます。
その「誰に向けて何を提供して、どんなゴールを想定しているか」を検討するための2本柱が、今回解説するブランディングとUXデザインです。
この2本柱の相違点と共通点を整理し、それぞれの立ち位置と効果を解説します。
まずはブランディングとは何かを知る

ブランディングとは、企業やコンテンツの価値を高めるための手法のひとつです。そのため、ブランディングというフレーズが最も多く飛び交う業界は広告業界となります。
しかし、自社コンテンツを発信するチャンネルが多様化する現代では、広告業界に限らず様々な場面でブランディングの考え方や手法が取り入れられています。もちろん、WEBサービスやアプリサービス開発の現場でも同様です。
そんな、現代ではかなり耳馴染みのあるブランディングというフレーズですが、具体的にはどのようなものなのでしょうか。まずは、その目的や考え方を簡単に解説してみたいと思います。
ブランディングの目的
ブランディングの目的は、ひとことで言えば「企業やプロダクトの価値を高め、競合との差別化を図る」事です。
もう少し踏み込んだ解説をするならば、企業やプロダクトがユーザーにとってどのような魅力があるかを明確にし、ストロングポイントとして定義します。そのポイントを武器に、多くのユーザーの心に刺さる企業やプロダクトの姿を目指すのが、ブランディングの目的になります。
ブランディングの種類
ブランディングには大きくふたつの種類があります。「外部向けのアウターブランディング」と「企業内部向けのインナーブランディング」です。
アウターブランディングの目的と特徴については、前段の「ブランディングの目的」で解説した通りになります。
では、インナーブランディングとはどのようなものなのでしょうか。それは、読んで字のごとく自社の社員・内部スタッフに向けたブランディングです。その目的は、内部のスタッフにとって「ここで働きたい、働けて嬉しい」と思える魅力ある環境を構築することにあります。自社ブランドの社会的価値の共有や、スタッフにとって誇れる企業理念の明確化を通して、組織の一体感を醸成します。
それでは、WEBサービスやアプリサービスといったデジタルプロダクトに目を向けて、改めてブランディングの価値を当てはめてみましょう。Webサービスやアプリサービス開発の場合には、デザインやユーザーインターフェース、コミュニケーションの一貫性など、ユーザーが触れるあらゆる場面でその世界観を提供し続ける事がポイントになります。
外部向けか内部向けかに関わらず、またそのプロダクトがデジタルかアナログかに関わらず、あらゆるブランディングに共通する本質とはなにか。それは「自社やプロダクトを、ユーザーにどのように見せたいか」という視点です。言い換えれば、ブランディングとは「自分発信の自分語り」であり、企業が主体となって自らの価値を定義し、それを効果的に伝えていく活動だといえます。
しかし、ここで注意したいのは、ブランディングは決して一方的な自己主張ではないということです。効果的なブランディングは、常にターゲットとなるユーザーを意識し、その期待や需要を理解した上で行われます。特にWEBサービスやアプリサービスといったデジタルプロダクトの開発において、この点は極めて重要です。
なぜなら、デジタル環境では、ユーザーの選択肢が豊富で、切り替えコストも低いため、一方的な企業メッセージは簡単に無視されてしまうからです。そのため、デジタル領域におけるブランディングは、より双方向的なコミュニケーションを重視し、ユーザーとの関係性構築を目指す方向に進化しています。
このようなブランディングの考え方は、次項で解説するUXデザインとの関係性を考える上で重要な基盤となります。
また、この一連のブランディングプロセスの中で重要視される要素であるユーザーへの意識を確かな物にするには、架空のユーザー像を作り上げ利用するペルソナ設定についての理解が欠かせません。ペルソナ設定についてはこちらの記事もおすすめです。
関連記事:システム・アプリ開発におけるペルソナ設定の重要性とは?
改めてUXとは何かを振り返る

WEBサービスやアプリサービスといったデジタルプロダクトの現場はもちろんのこと、業務としてUXデザインを行わない領域のビジネスシーンでも、頻繁に耳にする程に、UXデザインはすっかり定着した考え方になりました。しかしその本質を理解している方はまだまだ少なく、「聞いたことはあるけど意味はよく分からない」言葉の代表選手のような存在になっています。
User Experience(ユーザーエクスペリエンス)の略であるUXは、日本語では「ユーザー体験」と訳されます。ただし、これは少し誤解を招きやすい表現かもしれません。なぜなら、UXは単なる「ユーザーが気分良く使える」以上の意味を持つからです。
例えば、あるアプリの「使いやすさ」だけを追求した結果、画面遷移は早くなり、ボタンの配置も最適化され、確かにスムーズな操作が可能になったとします。しかし、それだけでは真の意味での優れたUXデザインとは言えないのです。なぜなら、ユーザーにとって本当に価値ある体験とは、そのアプリを使うことで「何かが達成できた」「生活が便利になった」「新しい発見があった」という、より本質的な「プロダクトを利用する事によって結果的に得られた満足感」にあるからです。
つまり、UXは「ユーザーとプロダクトの出会いから、使い終わった後までの、すべての体験の総和」として捉えることができるのです。
そのUX成立までのフローを分かりやすく整理すると、以下のようになります。
- サービスとの最初の接点における印象
- 利用開始時の導入のしやすさ
- 日常的な利用における操作性
- 問題発生時の解決体験
- 継続的な利用を促す満足度
- サービスについて誰かに語りたくなる共感性
- 利用後に残る記憶や感動
UXデザインの重要性
デジタルプロダクトの特徴として、競合サービスへの乗り換えコストが比較的低いという点が挙げられます。たとえば、使いづらいECサイトがあれば、ユーザーは数クリックで別のショップに移動できます。メッセージアプリが期待通りに機能しなければ、別のコミュニケーションツールをダウンロードするだけです。
このような環境では、単に機能が充実しているだけ、あるいは最低限の使用に耐えるというレベルでは、継続的な利用を期待することは困難です。事実、多くのアプリが、ダウンロード直後にユーザーから見放され、アンインストールされているという現実があります。
しかし、優れたUXデザインによって、「使っていて心地よい」「日常的に必要不可欠」と感じられるサービスは、驚くほど強い支持を獲得します。例えば、ある動画配信サービスは、細部にまで配慮された快適な視聴体験を提供することで、従来のテレビ視聴習慣さえも変えてしまいました。
UXデザインの具体的アプローチ
UXデザインの実践において重要なのは、具体的な検証と改善の繰り返しです。これは一見、遠回りに見えるかもしれません。しかし、ユーザーの本質的なニーズを掴むためには、この過程は不可欠です。
実際に、あるECサイトの開発で取られたプロセスをご紹介します。
- ユーザーの実際の購買行動分析 「カートに入れたのに購入に至らないのはなぜか」「商品検索で躓くポイントはどこか」といった具体的な行動パターンを徹底的に分析します。
- 躓きやすいポイントの特定 「商品が見つからない」「決済方法が分かりにくい」など、ユーザーが感じるあらゆる不満や困難を洗い出します。
- 潜在的なニーズの発掘 「こんな機能があれば便利なのに」という声を集めるだけでなく、ユーザー自身も気づいていない潜在的なニーズを発見することを目指します。
- プロトタイプによる検証 実際に動く形にして検証することで、机上の想像では気づけなかった課題が次々と浮かび上がってきます。
- 継続的な改善サイクルの実施 完成形などないと考え、常により良い体験を目指して改善を続けます。
このように、UXデザインの基本にして肝となるのは徹底した「ユーザー目線」による進行です。UXデザインの現場では、提供する側の意図や都合は一旦脇に置き、純粋にユーザーが求める価値を起点として考えるマインドが特徴です。
「ユーザーへの想い」という不確定な概念を軸に据えるUXデザインですから、時には当初の企画意図を完全に覆すような発見があることも珍しくありません。例えば、あるビジネスチャットツールは、「業務効率化」を目的に開発されましたが、ユーザーテストを重ねる中で「チームの一体感醸成」という本来意図していなかった価値を発見。結果として、その特徴を前面に押し出したサービスへと進化を遂げました。
UXデザインをする上でのこの姿勢は、先に解説したブランディングとは完全に真逆のアプローチといえます。ブランディングが「企業からユーザーへ」というトップダウンの価値提供を志向するのに対し、UXデザインは「ユーザーから企業へ」というボトムアップの価値発見を目指すからです。
この性格の違いは、まるで正反対の方角を目指して歩き出す旅路かのように見えます。一方は自分の思い描く目的地に向かって確信を持って進み、もう一方は途中で出会う人々の声に耳を傾けながら進路を決めていく。一見すると水と油のような、この相反する2つのアプローチは大変興味深い比較に思えます。しかし実は、この真逆の道を進む両者には、意外な関係性が存在します。それについては次の項目で詳しく解説していきます。
UXについてより深く知りたい方は、以下のページもおすすめです。
関連記事:UX(ユーザーエクスペリエンス)とは何か。顧客体験を高めるためのポイントと事例について解説
ブランディングとUXの相違点と共通点

ブランディングとUX(デザイン)について、それぞれの性質を整理してきましたが、いよいよデジタルプロダクト開発における、ブランディングとUXデザインの最大の相違点は一体なにかを考えてみたいと思います。
それは、両者の視点の方向性にあります。この違いは、まるで同じ山の頂を目指しながら、麓から登る道と、頂から降りてくる道ほどの違いがあるのです。
相反する2つの視点
まずはブランディングですが、こちらは「企業が何を提供したいか」という発想が起点になります。つまり、自社の強みや価値観を明確にし、それをユーザーに訴求していく手法です。いわば、企業からユーザーへと向かう「価値の押し出し」といえるでしょう。
例を挙げます。デジタル家計簿アプリを開発する場面を想定します。ここでのブランディングアプローチでは次のように考えます。
- 私たちは利用者の資産を賢く増やすためのパートナーでありたい。
- シンプルで洗練された操作性にこだわり、毎日使いたくなるアプリを目指す。
- 信頼性の高い金融情報を提供することで、ユーザーの意思決定をサポートする。
一方、UXデザインは「ユーザーは何を求めているか」という視点からスタートします。つまり、ユーザーの行動や感情を徹底的に分析し、そこから価値を見出していく手法です。言い換えるならば、ユーザーから企業へと向かう「価値の引き出し」ともいえます。
同じようなデジタル家計簿アプリの開発現場だとしても、UXデザインのアプローチはブランディングのそれとは大きく違う思考になります。例えば以下のような形です。
- 入力の手間を嫌がるユーザーが多いので、自動で収支を記録する方法はないか。
- グラフや数字を見ても実感が湧かないという声がある。視覚的な工夫が必要だ。
- 家族との共有ニーズが予想以上に高い。マルチアカウント機能を検討すべきではないか。
アプローチの違いがもたらすもの
ブランディングとUXデザインにおける、この相反するアプローチは、プロダクトの形成過程に大きな違いをもたらします。
そのフローについて、まずはブランディングの場合を整理します。
- 企業理念やビジョンの明確化から始まり
- その価値観を言語化し
- 一貫したメッセージとして発信し
- 独自の世界観を構築・維持する
例えるならこれはちょうど、彫刻家が石材から理想の形を彫り出すように、企業の思い描く理想をプロダクトとして具現化していく過程といえます。
一方、UXデザインの場合は以下のようなフローになります。
- ユーザー行動の観察と分析から始まり
- そこから見えてきた課題を抽出し
- 解決策を検証しながら改善を重ね
- より良い体験品質を目指し続ける
こちらは、ひとことで言えば思いやりの心を実行していくステップと言えます。例えるならば、小学校の先生が生徒達の健やかな未来を思い描きながら、生徒目線でより良い成長のステップを用意するような歩み方です。
このように、ブランディングとUXデザインは、まるで正反対の方向からプロダクトの価値を高めようとしています。しかし興味深いことに、この真逆の取り組みは、ある一点で必ず交わることになります。
それは「ユーザーの心からの満足」という地点です。ブランディングもUXデザインも、最終的にはユーザーに深い満足を提供することを目指しているのです。この意外な共通点については、次の項目でさらに掘り下げます。
ブランディングとUXは違う道を選びながらも目的地は同じである

ここまでで、ともすれば同一視されることも少なくないブランディングとUXデザインが、いかに異なるアプローチを取るかについて、ご理解いただけたのではないでしょうか。
しかし、ここで非常に興味深い事実が浮かび上がってきます。それは、この正反対の道を歩む2つのアプローチが、最終的に同じ場所にたどり着くという点です。
2つの道が交差する地点
例えば、先ほど例に挙げたデジタル家計簿アプリの場合を考えてみましょう。
ブランディングアプローチでは「資産を賢く増やすためのパートナーになる」という理念を掲げ、その実現に向けて機能や世界観を作り込んでいきます。一方、UXデザインのアプローチでは「入力の手間を省きたい」「家族と共有したい」といったユーザーの声に耳を傾け、それらの要望に応えるべく機能を磨いていきます。
一見すると、この2つは全く異なる方向を向いているように見えます。しかし、両者が目指す最終的な到達点は同じなのです。
それはただ一つ。ユーザーにとって、かけがえのない存在になることです。
この目的地に向かって、ブランディングは企業の理想から、UXデザインはユーザーの現実から、それぞれアプローチしていくのです。
異なる視点がもたらす相乗効果
実は、この2つの異なるアプローチは、互いに補完し合う関係にあります。
ブランディングによって確立された強い理念は、UXデザインの方向性を定める際の重要な指針となります。例えば「資産を賢く増やすパートナー」という理念があるからこそ、単なる収支管理ツール以上の価値を追求することができます。
逆に、UXデザインによって得られたユーザーインサイトは、より説得力のあるブランディングを実現するための貴重な素材となります。「家族との共有」というニーズの発見は、例えば「みんなで育てる家計」という新たなブランド価値を生み出すきっかけになるかもしれません。
このように、異なる道を進みながらも、最終的にはユーザーの心に寄り添うという同じ目的地に向かって進む。それこそが、ブランディングとUXデザインが織りなす、デジタルプロダクト開発の真髄なのです。
まとめ
本稿では、ブランディングとUXデザインという、一見相反する2つのアプローチについて解説してきました。
ブランディングは企業の理想から始まり、その価値をユーザーに届けようとします。一方でUXデザインは、ユーザーの現実から始まり、その声に耳を傾けながら価値を形作っていきます。この2つの異なるアプローチは、どちらも欠かすことのできない重要な役割を担っています。
デジタルプロダクトの開発において、この2つを上手く組み合わせることができれば、素晴らしい相乗効果を生み出すことができます。ブランディングで描いた理想を、UXデザインで現実的な形に落とし込む。あるいは、UXデザインで発見したユーザーニーズを、ブランディングで魅力的な世界観として昇華させる。
このように、異なる道を進みながらも「ユーザーの心からの満足」という同じ目的地を目指すという過程で、ときにはブランディングサイドの理想とUXサイドの理想との間で悩み、苦心することもあるでしょう。しかし、その試行錯誤こそが、真にユーザーに寄り添えるデジタルプロダクトを生み出す原動力となるのです。 優れたデジタルプロダクトの開発には、高度な技術力はもちろん必要です。しかし、それ以上に重要なのは、ブランディングとUXデザイン、この2つの視点を持ち合わせ、バランスよく活用していく姿勢なのかもしれません。
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