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「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は広く知られるようになりましたが、具体的な意味やITとの違いを正確に説明できる方は意外と少ないかもしれません。
企業のDX推進が叫ばれる一方で、「結局、DXとIT化は何が違うのか?」「DXを導入するとどのようなメリットがあるのか?」と疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、DXの定義やITとの違いを明確にし、導入によるメリットや企業の成功事例を交えながら、その効果について分かりやすく解説します。

DX化とIT化の違い
DXとIT化の違いを理解するためには、それぞれの意味を明確にしておくことが重要です。IT化とDXはどちらもデジタル技術を活用しますが、その目的や影響範囲には大きな違いがあります。
まず、IT化とDXについて詳しく見ていきましょう。
IT化とは「業務のデジタル化」
IT化とは、コンピュータやインターネットの普及により、業務プロセスをデジタル技術で最適化することを指します。主に、従来のアナログ業務をデジタルツールに置き換え、作業の効率化やコスト削減を目的としています。
<具体例>
- ・書類の電子化:紙の郵送書類を電子データに変換し、メールやクラウドで送受信可能にする
- ・業務システムの導入:手作業で行っていた勤怠管理や経費精算をクラウドシステムに移行し、自動処理を実現
- ・オンライン化:対面の会議をWeb会議システムに切り替え、時間と場所の制約を減らす
このように、IT化は「業務の効率化」や「コスト削減」を主な目的とし、既存のプロセスをデジタル化することで生産性を向上させる取り組みです。
DXとは「ビジネスの変革」
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用し、企業のビジネスモデル・業務プロセス・組織文化を変革することを指します。単なるデジタル化(IT化)ではなく、企業の競争力を向上させるための包括的な改革である点が特徴です。
日本におけるDXは、2018年に経済産業省が発表した「デジタルトランスフォーメーション(DX)推進ガイドライン」において、次のように定義されています。
「企業がビジネス環境の変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務プロセスや組織文化を変革し、競争優位性を確立すること。」(出典:「DX推進ガイドラインVer.1.0(平成30年12月)」)
つまり、DXは単なるデジタルツールの導入ではなく、企業全体の在り方を根本的に変える取り組みであることが強調されています。
DXについて詳しく知りたい方は「DXとはビジネスモデル変革の手段|概要と重要性を徹底解説」の記事もご覧ください。
IT化とDXの本質的な違い
IT化はDXの一部とも言えますが、DXは単なる業務のデジタル化ではなく、企業全体のビジネスモデルや組織文化の変革を目指すものです。
以下の表で、IT化とDXの違いを比較してみましょう。
IT化 | DX | |
目的 | 業務の効率化 | ビジネスの変革 |
手段 | 既存の業務にデジタルツールを導入 | デジタル技術を活用し、ビジネスモデル自体を変革 |
具体例 | 勤怠管理システムの導入、紙のデータの電子化 | サブスクリプションサービスの導入、新しい販売チャネルの開拓 |
対象 | 限定的な業務プロセス | 企業全体、業界全体 |
DXは、単なるデジタル化(IT化)を超えて、企業の競争力を高めるための大規模な変革を伴います。そのため、DXを成功させるには経営戦略の見直しや組織改革も必要となります。
※DX化を詳しく知りたい方は、「企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)とデジタル変換について」の記事をご覧ください。
DX導入のメリット
DXを導入することで、企業は競争力を強化し、より持続的な成長を実現できます。特に、以下の3つのメリットが大きく期待されます。
- ・業務の効率化・生産性の向上
- ・新たな価値創出による収益の増加
- ・BCP(事業継続計画)対策の強化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
業務効率化と生産性向上
DXの導入により、業務の無駄を削減し、より効率的な働き方が可能になります。単純な作業にかかる時間を短縮することで、従業員は創造的な業務や意思決定に集中できるようになるのです。
例えば、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入すれば、これまで手作業で処理していた定型業務を自動化でき、業務負担を軽減できます。請求書処理やデータ入力などの単純作業を自動化することで、人的ミスを減らし、より正確でスピーディーな業務遂行が可能になります。
また、クラウドシステムを活用することで、社内外の情報共有がスムーズになり、リモートワーク環境でも効率的に業務を進められます。リアルタイムでデータにアクセスできるため、チーム内の連携が向上し、業務の停滞を防ぐことが可能です。
さらに、こうしたデジタルツールの活用により、これまで時間がかかっていた意思決定のスピードが加速し、より柔軟かつ迅速な対応ができるようになります。業務効率が上がるだけでなく、競争力の強化にもつながるでしょう。
新たな価値創出による収益の増加
DXの導入により、企業は業務の効率化だけでなく、新しい収益モデルを生み出せます。デジタル技術を活用することで、安定した売上の確保や競争力の強化が可能になります。
例えば、サブスクリプションサービスを導入すれば、売り切り型のビジネスから継続課金型へ移行でき、長期的な収益につながります。また、データ分析を活用することで、顧客のニーズを的確に把握し、より最適なサービスや商品を提供できるでしょう。
ECサイトでは、購買履歴をもとに個々の顧客に合った商品を提案し、売上の向上を図る企業が増えています。製造業ではIoT技術を活用し、機械の状態をリアルタイムで監視することで、予防保守を強化し、トラブルを未然に防ぐことが可能です。これにより、無駄なコストを削減しながら、顧客満足度の向上にもつながります。
BCP(Business Continuity Plan)対策の強化
DXの推進により、企業の緊急時の対応力が大きく向上します。自然災害やパンデミックが発生しても、リモートワークの環境を整えておけば、安全を確保しながら業務を継続できます。
クラウドを活用すれば、オフィスにいなくても業務データにアクセスでき、事業の中断を防ぐことが可能です。また、AIやIoTによる監視システムを導入すれば、異常を素早く検知し、トラブルの拡大を防げます。
DXを導入することで、業務の効率化や新たな価値創出に加え、非常時の対応力も強化されます。デジタル技術を活用すれば、予測不能な事態にも柔軟に対応できる企業基盤を築くことができるでしょう。

DX推進の具体的なステップ
DXを成功させるには、単にデジタルツールを導入するだけでなく、企業全体の戦略や文化を変革することが重要です。そのため、DXは段階的に進めることが不可欠であり、次の4つのステップを踏むことで、スムーズな推進が可能になります。
- 1、現状分析と課題の特定
- 2、デジタル戦略の策定
- 3、IT化の推進
- 4、組織文化の変革
まず現状分析と課題の特定を行い、自社の業務プロセスやIT環境の問題点を洗い出します。例えば、紙の書類が多く、データの管理が煩雑な場合は、電子化によって業務効率を改善できます。従業員や管理職へのヒアリングも行い、現場の課題を正確に把握することが大切です。
次にデジタル戦略の策定を行い、DXの目的とロードマップを明確にします。業務効率化か、新たなビジネスモデルの構築か、目標を定めることで、導入すべき技術やツールが見えてきます。例えば、製造業ならIoTによる予知保全、小売業ならデータ分析を活用したマーケティングが考えられます。戦略の実行をスムーズに進めるため、DX推進チームを設置するのも有効です。
その後IT化を推進し、業務の自動化やデータ活用を進めます。クラウドの導入で情報共有をスムーズにし、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用すれば、請求書処理や勤怠管理の自動化が可能になります。ただし、IT化はDXの目的ではなく、変革を実現するための手段であることを忘れてはいけません。
最後に組織文化の変革を進めます。デジタル技術を活用するには、社員のITリテラシー向上が欠かせません。研修や教育を通じて新しいツールの活用を促し、変革に貢献した社員を評価する仕組みを導入することで、DXの定着を図ります。
このように、DXは段階的に進めることで効果的に推進できます。企業の競争力を高めるために、一歩ずつ着実に取り組んでいくことが重要です。
DX導入の課題と注意点
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業の競争力を高める重要な取り組みですが、導入にはさまざまな課題が伴います。特に下記3つの課題は、多くの企業が直面するポイントです。
- ・IT人材の不足
- ・既存システムとの統合
- ・投資対効果の評価
それぞれの課題について詳しく見ていきましょう。
IT人材の不足
DXを推進するには、デジタル技術に精通した人材が不可欠です。しかし、IT人材は市場全体で不足しており、多くの企業が確保に苦労しています。特に、中小企業や非IT企業では、社内に専門的な知識を持つ人材がいないため、DXが進まないケースが少なくありません。
解決策のひとつとして、社内人材の育成があります。デジタルスキルを習得できる研修を導入し、既存の従業員がITリテラシーを高められる環境を整えることが重要です。また、外部の専門家と協力し、DX推進パートナーを活用するのも有効な方法です。クラウドサービスやDXコンサルティング企業と連携することで、技術的なサポートを受けながら、スムーズにDXを進めることができます。
既存システムとの統合
DXを進める際には、新しいデジタル技術と既存のシステムをどのように統合するかが大きな課題となります。多くの企業では、長年にわたり運用してきた基幹システムや業務ツールが存在し、それらと新しいシステムを連携させることが難しいケースがあります。
例えば、オンプレミス環境で運用しているシステムと、クラウドサービスを連携させる場合、データの移行やセキュリティの確保が課題になります。また、部門ごとに異なるシステムが導入されている企業では、システム間の互換性を確保しないと、データが分断されてしまう恐れがあります。
この課題に対処するためには、段階的な移行を計画し、既存システムと新しいシステムがスムーズに連携できる環境を整えることが重要です。APIを活用したデータ連携や、クラウド対応のハイブリッド環境の構築など、移行の負担を軽減する方法を検討しましょう。
投資対効果の評価
DXには多くのコストがかかるため、その投資が適切に利益につながるかを評価することが求められます。しかし、DXは短期間で直接的な収益を生むものではなく、長期的な視点で効果を測定する必要があります。そのため、「投資したが効果が見えにくい」といった課題に直面する企業も少なくありません。
DXの投資対効果を正しく評価するためには、KPI(重要業績評価指標)を明確に設定することが重要です。例えば、業務効率化を目的とする場合は、作業時間の短縮やコスト削減率、新しいビジネスモデルの構築を目的とする場合は、新規顧客の獲得数や売上の伸びを指標として設定できます。
また、DXの導入初期段階では、スモールスタートを意識し、小規模なプロジェクトで効果を検証しながら、徐々に範囲を拡大するアプローチを取ると、リスクを抑えつつ進めることができます。
※DX推進を行う上での課題について知りたい方は、「自社のDX化が失敗に終わる理由とは。課題や実例を紹介」の記事もご覧ください。
DXの企業別導入事例
製造業の事例:トヨタ自動車
トヨタ自動車は、「お客様との絆づくり」と「販売店の働き方変革」を目指し、オンプレミスの基幹システムとクラウド型CRM(顧客管理システム)「Salesforce」を連携させました。これにより、顧客情報を一元化し、販売店が横断的に活用できる仕組みを構築しました。
クラウドの拡張性や俊敏性を最大限に活用することで、営業活動の効率化が進み、販売店の業務負担が軽減されると期待されています。顧客対応の質も向上し、パーソナライズされたサービス提供が可能になりました。
参照:詳しくはこちら
建設業の事例:清水建設
清水建設株式会社は、設計段階からコンピュテーショナルデザインを活用し、BIMデータと連携することで、施工現場の業務を効率化しています。また、ロボットや3Dプリンタを導入し、建設現場の生産性向上にも取り組んでいます。
さらに、同社が独自に開発した建物運用のデジタルプラットフォーム「DX-Core」は、エレベーターや監視カメラなどの設備、各種IoTデバイスと連携し、建物の運用管理を効率化しています。これにより、利用者の利便性や安全性が向上し、ビル管理の負担も軽減されました。
「DX-Core」は商品化され、顧客への導入提案も進められており、建設業界のDX成功事例として注目を集めています。
参照:詳しくはこちら

まとめ
DXとIT化の違いを明確にし、その導入が企業にどのような影響を与えるのかを紹介してきました。
社会や市場の変化に対応するため、さまざまな業界でDXの重要性が高まっています。特に、製造業や建設業の事例からもわかるように、業務の効率化や新たな価値創出のためにDXの導入が進んでいます。
自社の既存システムや課題を見直し、今回ご紹介したステップを参考にしながら、DXの実現に向けて一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
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