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現代のビジネスにおいて、事業活動で得られるデータの価値はますます重要になっています。企業が競争力を維持・向上させるためには、データを素早く収集・分析し、経営の意思決定に活用することが不可欠です。しかしながら、多くの企業はこのプロセスを十分に活用できていません。その大きな要因の一つが、本記事のテーマである「基幹システム」にあります。
たとえデータ収集が順調に進んだとしても、そのデータを活用するための基幹システムが10~20年以上前のものでは、分析速度の低下や精度の問題が発生し、競争力を失うリスクが高まります。こうした状況が続けば、企業の成長が鈍化し、競合他社に遅れを取る可能性が高くなります。
近年、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の必要性が広く叫ばれていますが、その中でも事業の中核を担う基幹システムの開発やリプレイスは特に重要な課題として認識されています。しかし、現実として、多くの企業がこの課題に着手できていないのが現状です。
本記事では、老朽化した基幹システムが抱える課題と、それに対する具体的な解決策について詳しく解説していきます。

基幹システムとは「情報システムの総称」
基幹システムは、企業活動の基幹となる業務をコンピュータで管理するシステムの総称です。特定のフレームワークやパッケージソフトのことを指すのではなく、複数の業務系システムを含む広範な概念として扱われます。
例えば、製造業を営む企業では、生産管理システムや在庫管理システムが企業の中核業務に該当するため、これらは基幹システムと呼ばれます。同様に、建設業では工事管理システムが基幹システムに含まれます。
また、業界を問わず広く活用される会計管理システムや人事管理システムも基幹システムの一種として分類されます。これらのシステムは、企業の運営に欠かせない情報を一元管理し、業務の効率化や意思決定の迅速化を支える重要な役割を果たしています。
基幹システムは、単一のソフトウェアではなく、企業の業務プロセスに応じて異なるシステムが組み合わさる形で構成される点が特徴です。そのため、業種や企業規模によって、導入するシステムの種類や機能が大きく異なります。
ERPと基幹システムの違い
基幹システムと混同されやすい概念にERP(Enterprise Resource Planning)があります。ERPは、企業の経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を一元的に管理し、業務の効率化や意思決定の迅速化を目的とするシステムです。
基幹システムは、会計管理や在庫管理など、各業務ごとに独立したシステムとして運用されることが一般的です。一方、ERPはこれらの基幹システムを統合し、データの一貫性を確保する仕組みを持ちます。
例えば、販売管理システムと在庫管理システムを連携させることで、リアルタイムでの在庫把握や需給調整が可能になります。
ERPの最大の特徴は、企業全体でデータを横断的に活用できる点にあります。従来の基幹システムでは、各部門ごとに異なるデータ管理を行うため、情報の共有や連携が難しくなりがちでした。しかし、ERPを導入することで、データが一元管理され、部門間の連携がスムーズになります。その結果、業務の自動化やリアルタイムな経営判断が可能になります。
ただし、ERPの導入には高額なコストがかかり、業務フローの見直しが必要になるため、企業の規模や業務内容に応じた選択が求められます。また、ERPは統合型のシステムであるため、柔軟なカスタマイズが難しく、企業によっては基幹システムとERPを併用するケースもあります。
このように、基幹システムとERPはそれぞれ異なる役割を持ち、企業の業務形態や経営戦略に応じて使い分けることが重要です。
ERPと基幹システムの違いについて詳しく知りたい方は、「ERP(企業資源計画)| SAPや基幹システムとの違いを解説」の記事もご覧ください。

基幹システムの主な課題
基幹システムが抱える主な課題は、下記の4つです。
- ・老朽化
- ・肥大化
- ・複雑化
- ・ブラックボックス化
それぞれ詳しく解説します。
老朽化
基幹システムの老朽化は、企業にとって避けられない課題です。開発当時のプログラミング言語や技術を使い続けることで、さまざまな問題が発生します。
例えば、COBOLのような1959年に開発されたプログラミング言語を用いたシステムでは、対応できるエンジニアの減少が深刻化しています。加えて、古い技術は最新のソフトウェアやクラウド環境と互換性がないことが多く、新しい業務要件に対応できないケースが増えています。
また、ハードウェアの劣化による処理能力の低下や、予期せぬダウンタイムの増加も問題視されています。システムの維持管理コストが年々増加し、業務に大きな影響を及ぼす可能性が高まっています。
特に、保険業界や金融業界では、COBOLを使用した基幹システムの老朽化が顕著であり、リプレイスやシステム移行が急務となっています。
<老朽化によるリスク>
- ・古い技術を持つエンジニアがいない/少ない
- ・不具合やバグが起きた際の替えが効かない
- ・システムが頻繁にダウンする
<解決策>
- ・システムの段階的な更新:古い部分から少しずつ新しい技術に移行する
- ・クラウドへの移行:サーバーをクラウドに移し、柔軟な運用を可能にする
- ・プログラムの見直し:古いコードを整理し、メンテナンスしやすい状態にする
肥大化
基幹システムの肥大化とは、使われていない機能が多く実装され、システムが必要以上に大きくなってしまう状態を指します。不要な機能が蓄積されることで、ユーザーの操作性が低下し、業務の効率が悪化するだけでなく、保守や運用の負担も増加します。
不要な機能がそのまま残っているケースも多く、企業によっては、どの機能が実際に活用されているのかを把握できていないことがあります。そのため、システムの最適化が進まず、運用コストが無駄に膨らんでしまうことも珍しくありません。
実際、システムの整理を後回しにする企業は少なくなく、システムの担当者が明確でない場合や、現場での影響を懸念して放置されることもあります。しかし、不要な機能をそのままにしておくと、システム全体のパフォーマンス低下につながり、新たな機能追加やリプレイスが難しくなる可能性があります。
<肥大化のリスク>
- ・ユーザのUI/UXに悪い影響を与えてしまう
- ・保守維持などのメンテナンスコストが高くなる
- ・基幹システムの更改時、改修コストが高くなる
<解決策>
- ・不要な機能の整理:定期的にシステムの棚卸しを行い、不要な機能を削減する
- ・モジュール化:システムを小さなパーツに分け、必要な部分だけ更新できるようにする
- ・業務フローの見直し:無駄な業務を削減し、システムの肥大化を防ぐ
複雑化
基幹システムは、その性質上、時間の経過とともに複雑化しやすい傾向にあります。その理由の一つとして、企業が市場の変化や顧客の多様なニーズに対応するために、システムの機能追加や改修を繰り返すことが挙げられます。
システムは、一度構築して終わりではなく、日々の業務の変化に合わせて更新され続けます。しかし、建物の増改築と同じように、計画性のない改修を繰り返すと、当初の設計から大きく乖離し、管理が難しくなります。本来、新機能の追加は業務の効率化につながるべきですが、実際の現場では、既存機能に影響を及ぼす開発が頻繁に行われるため、思わぬトラブルが発生することも少なくありません。
さらに、各部門の要求を個別に取り入れた結果、システム全体の統一性が失われ、データの整合性や連携が難しくなるケースも多く見られます。特に、大規模な基幹システムでは、どの機能がどのように関連しているのかが明確でなくなり、システムの維持・管理が困難になるリスクが高まります。
<複雑化のリスク>
- ・追加改修コストが膨らむ
- ・機能が枝分かれしてしまい、取り扱いが大変になる
- ・部門別に蓄積されたデータ連携が困難になる
- ・システムトラブルを起こす可能性がある
<解決策>
- ・システムの設計ルールを明確にする:改修時に一貫性を保つ
- ・データの標準化:異なるシステム間でも同じフォーマットでデータを扱う
- ・変更管理の強化:小さな単位で変更し、影響を最小限に抑える
ブラックボックス化
基幹システムは長期間運用されるため、次第に老朽化や機能の肥大化、構造の複雑化が進みます。こうした変化に対応するうちに、システムの運用・保守が特定の担当者に依存しやすくなり、ブラックボックス化のリスクが高まります。
多くの企業では、基幹システムの保守を少人数のチームで担当しているため、主担当者が退職や異動で抜けると、管理方法や過去の経緯が分からなくなり、システムの維持管理が困難になるリスクがあります。
さらに、システムの改修や機能追加が繰り返される中で、ドキュメントの整備が追いつかず、内容が継ぎ接ぎになってしまうケースも少なくありません。結果として、担当者間の情報共有が不十分になり、引き継ぎがスムーズに進まないことがあります。
こうした状況が続くと、システムの仕様を正確に把握できる人がいなくなり、障害発生時の対応や新規開発の際に多くの時間と労力がかかるようになります。
<ブラックボックス化のリスク>
- ・トラブル発生時に対応できるエンジニアがいない
- ・システム理解に時間がかかり、保守運用コストが増加する
- ・システム復旧対応等に必要以上の時間とコストがかかる
<解決策>
- ・マニュアルを整備する:システムの仕様を文書化し、誰でも理解できるようにする
- ・定期的にドキュメントを更新する:変更履歴を記録し、常に最新の状態を保つ
- ・開発ルールを標準化する:複数の担当者が対応できる仕組みを作る
基幹システムのDXによって得られる具体的なメリットについても知りたい方は、「基幹システムのDXによって得られる具体的なメリットとは?」の記事もご覧ください。
DXレポートが指摘する基幹システムの課題

出所:経済産業省 DXレポート「ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開(サマリー)」より抜粋
2018年9月に公表された経済産業省のDXレポートでは、約80%の企業が老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化(全てを総称してレガシー化と呼ぶ)した基幹システムを保持していることが明らかになりました。
また、2021年8月に発表した「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」によると、日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)は依然として進展が遅く、多くの企業が老朽化した基幹システム(レガシーシステム)を維持し続けていることが指摘されています。
特に、基幹システムが長年にわたって使われ続けた結果、技術的負債が蓄積し、運用・保守の負担が増大している現状が課題となっています。
同レポートでは、DXの実現に向けた基幹システムの刷新が急務であると強調されており、2025年までに抜本的な改革を行わない場合、企業の競争力低下や経済的損失(いわゆる「2025年の崖」)が避けられないとしています。
DXについて詳しく知りたい方は「DXとはビジネスモデル変革の手段|概要と重要性を徹底解説」の記事もご確認ください。
DXレポート2.1における主な指摘点
DXレポート2.1における主な指摘点は、下記4つです。
レガシーシステムの放置 | 2025年以降、老朽化した基幹システムの維持コストが急増し、企業の成長を阻害する要因となる |
クラウド活用の遅れ | オンプレミス環境に依存する企業が多く、クラウド化の推進が不十分である |
データ活用の課題 | 基幹システムが分断され、データの一元管理や活用が進んでいない |
経営層の意識改革の必要性 | システム刷新を経営戦略の一環として捉え、全社的に取り組む必要がある |
これらの課題を解決するためには、計画的なシステム刷新が求められます。特に、クラウドシフトやマイクロサービスの導入、データ基盤の統合など、DXを加速させる施策が不可欠です。
今後の対応策として推奨される施策
今後の対応策として推奨される施策は、下記4つです。
- ・クラウドファーストの方針を採用し、オンプレミス依存からの脱却を図る
- ・基幹システムの段階的なモダナイゼーション(最新技術への移行)を推進する
- ・APIの活用により、異なるシステム間のデータ連携を強化する
- ・経営層と現場が一体となり、DXを推進する組織体制を整備する
企業がこれらのリスクを回避し、競争力を維持するためには、DXの実行計画を明確にし、迅速に行動を起こすことが求められます。

企業が取るべき具体的な施策
基幹システムの課題を解決し、DXを推進するためには、「クラウドシフト」「API活用」「アジャイル開発」の導入が不可欠です。
それぞれの手法について詳しく解説します。
クラウドシフトの移行
従来のオンプレミス環境では、サーバーやネットワーク機器の管理が必要であり、システムの拡張や更新に時間とコストがかかります。一方、クラウドシフトを実施することで、スケーラブルなIT基盤を構築し、柔軟なシステム運用が可能になります。
クラウドシフトを成功させるには、段階的な移行が重要です。例えば、データバックアップや非中核システムからクラウド化を進め、最終的に基幹システム全体をクラウドへ移行する方法が効果的です。
API活用
基幹システムのデータを活用するには、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の導入が不可欠です。APIを活用することで、異なるシステム間の連携をスムーズにし、データの一元管理が可能になります。
APIを導入する際は、既存システムとの適合性を検討し、セキュリティ対策を徹底することが重要です。特に、REST APIやGraphQLなど、用途に応じた最適なAPI設計を行うことが求められます。
アジャイル開発の導入
従来のウォーターフォール開発では、大規模なシステム改修に長期間を要し、変化に対応しづらいという課題がありました。アジャイル開発を取り入れることで、小規模な単位で開発を進めながら、継続的に改善を行うことが可能になります。
アジャイル開発を成功させるためには、スプリント(短期間での開発サイクル)を意識し、スクラムなどのフレームワークを活用することが有効です。また、開発チームと業務部門が密に連携し、継続的にシステムの最適化を行うことが重要です。
おわりに
基幹システムは、一度開発すれば終わりというものではありません。企業活動と同じように、PDCAサイクルを回しながら継続的に改善していくことが求められます。そうしなければ、時間の経過とともに老朽化やブラックボックス化が進み、将来的に大きなリスクを抱えることになりかねません。
多くの企業で基幹システムがレガシー化してしまった背景には、開発会社側の責任もあると考えています。システム刷新の重要性を十分に伝えられなかった結果として、現在のように多くの企業がレガシーシステムの課題に直面し、日本経済全体にも影響を与える事態となりました。
しかし、経済産業省が指摘する「2025年の崖」まで、まだ時間は残されています。DX化や業務IT化を目指す企業の皆様とともに、この課題に向き合い、システムの最適化を進めることで、日本経済の活性化にも貢献していきたいと考えています。
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