
企業のデジタル化が加速する中で、「DX人材」の確保と育成は、もはや一部の企業だけの課題ではなくなりました。単なるITスキルを持つ人材ではなく、ビジネス全体を見渡し、変革をけん引する人材こそが今求められています。
本記事では、DX人材とは何か、その役割や必要なスキル、マインドセットをわかりやすく解説します。DX推進に取り組む企業担当者の方は、ぜひ自社に必要な人材像を描く参考にしてみてください。
※「企業のDX化への課題について」はこちらの記事をご覧ください。
DX人材とは
DX人材とは、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや業務プロセスを抜本的に変革できる人材を指します。単なるITスキル保持者ではなく、組織横断的に変革を推進するリーダー的な存在であることが求められています。
経済産業省では、DX人材を「ビジネス全体の変革を担う人材」と定義し、情報処理推進機構(IPA)も7つの職種類型を定めています。
DX推進には、経営層と現場をつなぐ広範な知識と経験が必要とされており、DX人材の育成と確保は多くの企業にとって重要な課題となっています。
DX人材に求められる役割と職種
企業のDXを成功に導くためには、さまざまな専門性をもつ人材が連携して取り組む必要があります。ここでは、DX人材の代表的な職種を参考に、それぞれの役割を解説します。
ディレクター
DX推進の舵取り役となるディレクターは、企業のビジョンや戦略を明確にし、それを組織全体に浸透させながらプロジェクトを先導するリーダー的な存在です。単に最新のデジタル技術に詳しいだけでなく、自社の事業内容や業界の動向、社会全体の変化にも目を配る力が求められます。
また、経営層との連携が不可欠であり、ビジネスとテクノロジーの両方に対する深い理解が必要とされるポジションです。変革の方向性を示しながら、社内の関係者を巻き込んで推進していく柔軟なリーダーシップが期待されます。
デザイナー
デザイナーは、ディレクターが描く戦略をもとに、具体的なDX施策を形にしていく役割を担います。単なるビジュアル設計者ではなく、サービスやプロジェクトの構想段階から関わり、企画・立案・実行に至るまで幅広く貢献します。
また、チーム内の意見をまとめ、異なる立場のメンバー同士をつなぐファシリテーターとしての役割も重要です。現場の声を反映させつつ、全体最適を意識した施策へと落とし込むバランス感覚が求められます。
アーキテクト
アーキテクトは、DXに必要なITシステムの全体像を設計し、技術とビジネスをつなぐ要となる存在です。システム分析や構成設計を担当し、プロジェクト全体の技術基盤を構築します。
実際の開発作業は行わないものの、技術的な整合性とビジネス要件のバランスを取ることが求められます。また、経営戦略との連携を意識しながら、コストや運用性、拡張性といった観点からも最適なアーキテクチャを導き出す力が必要です。
幅広い専門知識と論理的思考力を活かして、DXの成功を支える縁の下の力持ちともいえるポジションです。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、企業内外に蓄積された膨大なデータを分析・活用し、意思決定を支援する役割を担います。
統計学や機械学習、AIなどの先端技術に関する知識に加え、PythonやRなどのプログラミングスキル、BIツールの操作にも精通していることが求められます。
単なる分析にとどまらず、ビジネス課題に即したデータの選定と活用方針を設計する力が重要です。企業の競争力強化や新たな価値創出に貢献する、DXの中核を担う存在といえるでしょう。
UXデザイナー
UXデザイナーは、ユーザーの視点に立って、システムやサービスを使いやすく、魅力的に設計する役割を担います。単に見た目を整えるのではなく、ユーザー体験(UX)を高めるために、業務フローや操作性、感情的な満足度までを考慮した設計が求められます。
利用者が直感的に操作できる導線やレイアウトを構築するには、デザインスキルだけでなく、ユーザー行動に関する調査や情報収集の力も必要です。
多様なユーザーが迷わず使える、ストレスのないデザインを実現することで、DXの効果を最大化する重要なポジションです。
エンジニア/プログラマー
エンジニアやプログラマーは、アーキテクトが設計した構想をもとに、システムの開発、実装、運用、保守までを担う実行部隊です。
インフラ環境の構築や既存システムの改修など、幅広い業務に関わるため、ソフトウェアとハードウェアの両面に関する知識が必要です。また、プロジェクトを進行させる中では、さまざまな社内部門や外部ベンダーとの連携も求められるため、技術力だけでなくコミュニケーション能力や調整力も欠かせません。
DXの成果を形にするために、現場を支える重要なポジションです。
先端技術を扱えるエンジニア
先端技術エンジニアは、AIや機械学習、IoT、ブロックチェーンなどの最先端技術を駆使し、企業のイノベーションを支える役割を担います。単に技術を扱うだけでなく、それらをビジネスにどう活用し、競争優位性を高めるかといった視点も欠かせません。
特にこの分野は技術の進化が非常に速いため、日々の情報収集や自己研鑽が不可欠です。新たな技術トレンドをいち早くキャッチし、柔軟に取り入れていける適応力と探究心が求められるポジションです。
DX人材に求められるスキル
DXを推進する人材には、ビジネス・IT・データ・マネジメントという4つのスキル領域においてバランスよくスキルを備えていることが求められます。
下記の表では、前章で紹介した職種に基づき、それぞれの職種で必要とされるスキルの一例を紹介します。
スキル領域 | 職種 | 具体的なスキル |
ビジネススキル | ディレクター | 事業KPIの設計、施策の優先順位判断、業界動向の分析 |
マーケター | ペルソナ設計、マーケティング戦略の立案、収益構造の理解 | |
デザイナー | サービス設計におけるアイデア具現化、要件定義に基づく表現企画 | |
ITスキル | エンジニア/プログラマー | インフラ構築、API連携、セキュリティ設計、プロジェクト管理(PM業務を含む) |
アーキテクト | 全体アーキテクチャ設計、システム間の整合性検討 | |
エンジニア | AIやIoT、ブロックチェーンの業務適用ノウハウ | |
データスキル | データサイエンティスト | SQL・Pythonでの分析、モデル構築、AI実装 |
マーケター | GA4やBIツールによる施策分析、LTV・CVR改善への活用 | |
UXデザイナー | ユーザビリティテスト、定量調査・ヒューリスティック評価、行動データ分析 | |
マネジメントスキル | ディレクター | 全体方針の明示、部門間調整、意思決定の合意形成 |
エンジニア/プログラマー | 開発スケジュール管理、進捗確認、外注先との調整(リーダーポジション含む) | |
UXデザイナー | 関係部署との仕様すり合わせ、ステークホルダー調整 |
表記は一部簡略化していますが、実務で求められるスキルの幅は多岐にわたります。すべてを一人で完璧に備える必要はなく、各領域での基礎理解とチーム内の連携が重要です。
DX人材に求められるマインド・行動特性

DX人材はスキルだけでなく、マインドセットや行動特性も極めて重要です。以下に代表的な6つの特性を紹介します。
常に疑問を持ち続ける
進行中のタスクや一見うまくいっている業務に対しても、「本当にこのままでよいのか?」「もっと改善できる余地はないか?」と問い続ける姿勢は、DXを実現するうえで不可欠です。
ただ疑うのではなく、仮説を立てて検証し、課題の本質を見極める思考が求められます。既存の常識にとらわれず、新たな視点で見直す柔軟な発想が、組織変革を生み出す原動力となります。
リーダーシップ
DXを進める中では、社内の理解不足や既存体制の抵抗といった障壁に直面することも少なくありません。そうした状況でも、DX人材には先頭に立って取り組みを推進するリーダーシップが求められます。
単に指示を出すのではなく、部門を横断して関係者との対話を重ね、共通のゴールを描きながら企業全体を巻き込んでいく力が必要です。
困難な局面でも周囲を鼓舞し、前向きに進める姿勢が、変革を着実に進めていくためには欠かせません。
主体性
DXを推進するには、上からの指示を待つのではなく、自ら積極的に課題に取り組む姿勢が不可欠です。
特に新しい技術や業務フローに対して前向きに挑戦しようとする姿勢は、変革を進める現場において大きな力になります。また、急速に進化するIT分野では、自ら情報を収集し、自社にとって有効な技術は何かを見極めていく好奇心と行動力も求められます。
主体性を持った行動が、現場の空気を変え、周囲を巻き込む推進力となります。
アジャイル思考
変化が激しいDXの現場では、完璧な計画を立ててから動くのではなく、まずは小さく始めて改善を重ねていく柔軟な姿勢が求められます。
アジャイル思考とは、まさにそうした試行錯誤を前提とし、スピード感を持って対応していく考え方です。
完璧を目指すのではなく、失敗も学びと捉えて前進し続ける姿勢が、新たな価値の創出につながります。
継続的な学習意欲
DX領域は技術や手法の進化が非常に早く、常に新しい知識が求められます。そのため、変化に対応するための継続的な学習姿勢は欠かせません。
新しいツールやトレンドをキャッチアップするだけでなく、業務にどう応用するかを考えながら学び続ける姿勢が信頼や成果につながります。
学習への投資を惜しまず、自ら学びに行く意欲がDXを支える重要な土台となります。
課題解決志向
DXの推進には、常に新たな課題が伴います。そのため、目の前の問題を見つけ出し、原因を深く掘り下げたうえで、最適な解決策を導き出す力が求められます。
単なる一時的な対処ではなく、仕組みそのものを見直して構造的に改善していく姿勢が重要です。
また、現場の課題に対しても冷静に向き合い、関係者と協力しながら解決に導く柔軟性と粘り強さも欠かせません。
DX人材の獲得方法
企業がDX人材を確保するためには、外部採用やパートナー連携、社内育成など複数のアプローチがあります。それぞれの特徴を確認しておきましょう。
外部から採用する
社外でDX人材として活躍している人材を中途採用によって獲得する方法です。専門的なスキルや実績を持つ即戦力を迎え入れることで、スピード感のあるDX推進が期待できます。
しかし、現在はDX人材の市場価値が高く、多くの企業が獲得競争を繰り広げているため、労働条件や働きやすい環境が整っていないと選ばれにくいのが現状です。
裏を返せば、魅力的な待遇や柔軟な働き方を提示できれば、優秀な人材を確保できる可能性は十分にあります。
外部パートナーを活用する
DXの取り組みそのものを、外部の専門企業に委託する方法です。自社に知見やリソースが不足している場合でも、経験豊富なコンサルティング会社やシステム開発会社を活用することで、質の高いDX施策を短期間で実行に移すことが可能になります。
ただし、DX支援に実績がある信頼性の高いパートナーを選定することが重要です。また、費用や納期が自社の状況に合っているかを事前に見極めることも欠かせません。
目的に合った外部パートナーとの連携が、DX成功の確度を高めるカギとなります。
※DXコンサルティングについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
社内人材の育成に取り組む
長期的な視点で取り組むべきアプローチとして、自社の既存人材をDX人材へと育成する方法があります。
自社の文化や業務フローを深く理解している人材は、DXの取り組みにもスムーズに適応しやすく、継続的な推進力となります。特に現場との橋渡し役としての役割が期待できるため、安定した人材基盤づくりにおいて非常に有効です。
育成には、社内外の研修制度、メンタリング、キャリアパスの明確化といった仕組みづくりが不可欠であり、こうした取り組みが、着実な人材育成の土台となります。
社内でのDX人材の育成方法

社内人材をDX人材として育成するには、計画的かつ実践的な支援が不可欠です。ここでは育成の4つのポイントをご紹介します。
適性のある人材の見極め
DX人材を社内で育成していく第一歩は、適性のある人材を見極めることです。自社の業務全体を理解し、かつ自部門の課題にも精通している人物は、DX推進の現場でも活躍が期待されます。
加えて、コミュニケーション能力が高く、リーダーシップや主体性といった行動特性を持ち合わせていることも重要なポイントです。
こうした資質を備えた人材を早期に見つけ、明確な育成方針のもとで支援していくことが、組織全体のDX力を底上げすることにつながります。
スキルを身につける学習環境の整備
DX人材を育てるうえで欠かせないのが、必要な知識やスキルを学べる学習環境の整備です。AIやビッグデータ、IoTなどの先端技術だけでなく、デザイン思考やデジタルマーケティングといった分野も含め、幅広いスキル習得の機会を提供することが求められます。
eラーニングの活用や社外研修、資格取得支援などを通じて、体系的かつ実践的に学べる仕組みを整えることが、育成の成果を確実に定着させるポイントとなります。
実践で学べるプロジェクト機会の提供
学習で得た知識やスキルを、実務を通じて活かす場を設けることは、DX人材育成において非常に重要です。座学だけでは身につかない判断力や応用力を鍛えるには、実際のプロジェクトに参加し、リアルな課題に向き合う経験が不可欠です。
はじめは小さな業務改善や試験的なプロジェクトからスタートし、段階的に関与領域を広げていくことで、着実にスキルを定着させることができます。実践を通じた成長が、組織全体のDX力を底上げする原動力になります。
全社を巻き込んだ可視化・共有
DXを円滑に進めるには、社内全体での理解と協力が欠かせません。そのためには、育成対象者だけでなく、育成の取り組みそのものを全社で「見える化」することが重要です。
DX人材の成長過程や取り組み内容を社内に共有することで、他部門からのサポート体制を築きやすくなり、成功事例の横展開も可能になります。
育成の取り組みを開かれた形で行うことで、他の社員のモチベーション向上にもつながり、社員一人ひとりがDXを自分のこととして考えるきっかけにもなります。
※自社DX人材の育成について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
まとめ
企業内の課題を根本から解決し、持続的な成長を実現していくためには、DX人材の確保と育成が重要な出発点となります。
人材育成には時間と労力を要しますが、早期に着手することでDXへの理解が社内に浸透し、組織全体が協力しながら変革を進めていく体制を築くことができます。そのような積み重ねが、企業の競争力を高め、将来の成長へとつながっていくのです。
DX人材は、単なるITスキルを持つ人材ではなく、組織の変革を先導する存在です。企業が変化の激しい環境を乗り越えていくためには、社内外からの人材確保と育成を中長期的に計画し、着実に取り組んでいくことが不可欠です。
これからの時代を生き抜くためにも、DX人材との向き合い方を、今あらためて見直すことが求められています。
—————————————————————————————————————
システム開発、アプリ開発、新規事業立ち上げ、DX化の推進でお困りではありませんか?
日本全国には開発会社が無数にありますが、Webサービスやアプリサービスのスケール(規模拡大)を実現するビジネス推進力やシステムの堅牢性、可用性を意識した設計力・技術力を合わせ持つ会社は、全国で見ても多くはなく、弊社は数少ないその一つ。お客様のご要望通りに開発することを良しとせず、お客様のビジネス全体にとって最適な解を模索し、ご提案ができるビジネス×テック(技術力)×デザインの三位一体型のシステム開発/アプリ開発会社です。ITやDX全般に関して、何かお困りのことがございましたら下記の「GeNEEへのお問合せ」フォームからお気軽にご連絡いただけたらと思います。
—————————————————————————————————————

コンテンツマーケティングディレクター
慶應義塾大学卒業後、日系シンクタンクにてクラウドエンジニアとしてシステム開発に従事。その後、金融市場のデータ分析や地方銀行向けITコンサルティングを経験。さらに、EコマースではグローバルECを運用する大企業の企画部門に所属し、ECプラットフォームの戦略立案等を経験。現在は、IT・DX・クラウド・AI・データ活用・サイバーセキュリティなど、幅広いテーマでテック系の記事執筆・監修者として活躍している。